第6章 美しい悲劇
「石切さん、いいですか?」
声を掛けると、
「やぁ、どうしたんだい?」
石切丸が顔を出してくれた。
「あの、ちょっと相談したいことがあって…」
私のまとなりには清光が手を握って共に見上げて立っている。
「…まぁ入りなよ」
少し顔を歪めた石切丸に許可をもらい部屋に入るなり、
「主、俺の子宿したかもって!!」
清光が捲し立てた。
「ちょと!!違うって。あの、生理が来てなくて…」
「生理?」
「あーえと、月のもの?とかいうんですっけ?」
やはり私は昔の言葉には疎い。通じるかどうかの賭けだ。
「あぁ。それで…」
必死の私に石切丸の表情が少し和らぐ。
「石切さん、妊娠しないって言ってましたよね?」
「うん、しないし、してないよ」
「へ??」
私と清光の声がハモった。
「主の時代ではあまり言わないかもしれないけど、古来日本ではその月のものを穢れだとされていたことがあってね、神事に関わることと一線を引かれていたことがあるんだ。私たちのなかではどうしてもその時代ごとの風習なんかが残っていてね」
確かになんとなく聞いたことがある。
生理のときに神社に参拝するなって。判らないまま従ってたけど。
「主にその月のものが来てしまうと、ここに穢れを運ぶことになってしまう」
「だけど、来てないのここひと月だけなんですけど…」
ここに通うようになってからも別に普通に来てたし、普通に通ってた。
「うん。だからまぁ、考え方は古いけど迷信というものだからね。だけどずっと昔から植え込まれてきた思想とか信念とかそういうものは簡単には変えられないから」
石切丸の言っている意味の核心がよく判らない。
首を傾げる私に、
「止まったのは君が付喪神と交わったからだ」
「!!?」
最後の一文でばしっと突きつけてきた。
「君の身体は既に神への贄として捧げられたものになる。そして穢れがあれば神が君を望む時、君は神を拒まなければならない。だがそれは許されないことなんだ」
「だから、止まった、と」
なんだかとんでもないことを言われた気がした。
「三日月さんから聞いたよ。頭痛があるようだね?」
「はい」
「それは君の身体が神への贄になることへの拒否反応なんだ」
「拒否、してるつもりはないですけど」
「無意識と本能の問題だからね」
石切丸は言った。