第6章 美しい悲劇
光忠に解放してもらった私は、水を求めて厨までひとり歩いた。
あぁそうだ。泊まるんならパジャマとか着替えも持ってこなきゃ。
昼食も終わり静かになった広間を横目に厨で水を飲み、落ち着いたところで一度玄関を出た。
家の中はシンと静まり返っていて、夏特有の蒸されている室内。
なんとなく洗濯物をとりこんで部屋干しにし、パジャマと、明日着る服を鞄に詰めた。
そういえば、清光としてからはひと月近くが経つ。
…生理、来てなくない?
どう計算してもおかしい。その前の生理は清光とする2週間は前だ。
妊娠しないって石切丸言ってたよね?
これでもし妊娠してたら不倫どころの騒ぎじゃなくなっちゃうじゃん。
どうしよ。相談するにも誰に?
妙な動悸と変な汗をかきながら荷物を持って再びクローゼットに足を踏み入れた。
「主ー!」
私が戻っているうちにどのくらいの時間が過ぎていたのだろう?
本丸の太陽は傾きかけている。
そして私の姿を見つけて駆け寄ってきたのは清光。
「ねぇ、今日お泊まりできるって聞いたんだけど、ほんと?」
「うん、ほんと。夜中まで一緒にいられるね」
私が言うと、
「違うでしょ?朝まで、でしょ?」
そう言ってきつく抱きしめた。
「ねぇ、主、シたい」
「っ…!!」
清光の艶っぽい声に疼きかけるが、今日はまず確認しなくちゃならないことがある。
「あ、のね、清光」
「なぁに?」
「えと、ここだとちょっと…」
清光を引っ張って審神者部屋まできた。
「何々?主もう我慢できないの?」
清光は何か勘違いをしている。
「や、あの、ちがくて」
襖を閉めて、
「ねぇ石切さん、子どもはできないって言ってたよね」
「うん」
「…あのね、生理、こないの」
「え…うそ」
高校生カップルかよ、みたいな会話。
「俺の子?」
「いや、だから、えっと…どうしよう」
完全にパニック状態の私に、
「やった!俺すごい嬉しいかも!」
喜ぶ清光。相談する相手間違えた。
とにかく会話が成立していない。
やっぱり困ったときの石切丸かな。
「…石切さんに聞いてくる」
「え!?俺も行く!」
部屋を出る私に、清光はぴったりくっついてきた。
だからそのまま二人で石切丸のところへ向かう。
少しだけ、怖かった。