第5章 jackal
「私は、人間は、汚い。汚くて、ズルい」
手を握りしめ、一期の胸を一度軽く叩いた。
「ズルくて汚い、それも人間の魅力でしょう?だからこそ綺麗な部分が輝いて見えるんです」
一期は短刀くんたちを諭すような物言いをする。
まるで私のお兄ちゃんにもなってくれたようだった。
「…いち兄!」
ぼそりと言うと、
「それは勘弁してください」
一期の腕が緩み、私はまた涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「この本丸はあなたの場所です。それに私たちは付喪神ですよ?乱されることはあってもあなたの暴走くらいで傷ついたりなんかしません。それだけは心得ておいてください」
そう言って私の目尻を拭った。
白い手袋に黒い染みがつく。
「主、もう少し落ち着いたら戻りましょうか。あまりだと皆がまた心配します」
「はい」
何度か深呼吸して落ち着かせて立ち上がった。いつの間にか日が傾き掛けている。
大きく身体を伸ばした私に、一期が身体を屈めるように顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「私にもどうか、主に口づける許可を」
柔らかく啄んだあと、そう言った一期は、酷く美しく映った。
一期と並んで屋敷に戻ると、
「お帰り。落ち着いたかい?」
光忠が出迎えてくれた。
「うん。ありがとう」
「主ご飯は?」
「食べる」
トマトだけじゃ足りないと言うと、それもそうだね、と笑ってくれた。
「そういえばもうじき薬研くんたちが出陣すると言っていたよ」
そう言われ広間に向かい短刀くんたちに声を掛けた。
今日は彼らの出陣を見届け無事帰還を確認するまでが私の仕事だ。
「主!もう平気か?」
「うん。ありがとね、包丁ちゃん」
少し心配そうな顔で私を見上げてくる包丁に答えると、嬉しそうに笑ってくれた。
「池田屋かぁ。俺もいきたーい」
「僕もー。ねぇ主今度は僕たちも組み込んでよ」
清光と安定が言う。
「そうだねー。清光たちなら大丈夫かな」
強くなってるし、行かせてあげたいという気持ちもある。
「主ならそう言ってくれると思ってた!」
言って私に抱きついてくる。
「清光?あんまり見せつけないでくれる?」
安定が笑顔で拳を握り締めた。
「安定さん、そんなの奪っちゃえばいいんですよ!」
堀川が清光を剥がし私を奪い取る。
頭はまだ痛む。ゆるくずーっと続いている感じだ。