第5章 jackal
「それは主がこの時期に夜遅くまでこの本丸におられることと何か関係があるのですか?」
「…うん」
「やはり主のお力だったのですね」
本当に温かくて不思議な力だ、と一期は言う。
「ですが、その力を強く感じる度に主の表情が曇っているように見えるのです」
「そんなこと、ないよ」
口元に力を込めて笑うと、
「無理をされているのでしょう」
一期がこちらを向いた。
「無理も、してないよ」
「嘘を吐かないでください。私の弟たちを守ろうと犠牲になってくださっているのでしょう?」
「…」
短刀くんたちだけではないが。
「私にはその苦しみを分けては頂けないのですか?」
一期の目は真剣だ。
「私は昨晩のように主と距離の近い男士たちを羨ましく思っています。私にもあのように自然に主の傍に行くことができたらと何度思ったことか」
昨日の醜態が自然なことだと思っているようだ。一期は天然なのだろうか?
「以前、共に入浴させていただいたときも、弟たちも鶴丸殿たちも堂々としていたのに、私はそれすらも出来ず失礼な態度をとるしかできませんでした」
一期の顔が少し赤くなった。
「それに、薬研からは鶴丸殿と主が近しい関係だと聞いていたのに、昨日は加州殿とも近いようでした。どちらにしても胸がざわつくのですが」
薬研、いらんこと言ったな。あいつの口には戸は立てられんのだろう。
「私も主を抱き締めたい。叶うのならば、あなたの苦しみを消してあげたい。そう思うのは良くないことでしょうか?」
一期は私に問ってきた。
「良いか悪いかは私には判らないよ」
神の前では善悪も常識も貞操も無意味だ。
「あなたを抱き締めることで癒せるのならばこの胸をお貸ししたいのですが」
そう言うと一期は私との間を詰め、肩を抱き寄せ私を胸に押し当てた。
「私だって主をお慕いしているんですぞ。それは知っていてください」
「一期…さん?」
「泣いても構いません、殴っても叫んでも眠っても構いません。主の思うままに」
力強い一期の優しさに、またじわりと涙が湧いてきた。
「私っ、は、いい審神者じゃ、ない。みんなを引っ掻き回して、苦しめて、傷つけて。ごめんなさい。私は、なにも、返せずっ、逃げてばかりで、ごめんなさい。だけどっ、ここに居場所が、欲しい。ここに、居たいの!」
籠る声で捲し立てた。