第5章 jackal
ぐずぐずになるまで泣いて、なんだか顔が涙でヒリヒリしてきたから小川まで下りて顔を洗った。
冷たくて気持ちいい。
泣きすぎか頭も痛む。
熱を持った顔に何度も掬っては当てを繰り返した。化粧が落ちてしまっているだろうけど、ひょっとしたらとんでもないパンダかもしれないけど、どうだってよかった。
ひとしきり繰り返していると、涙もようやく落ち着いてきて、顔を洗うのを止めた。
横隔膜が少し苦しい。そしてその弾みでお腹がくぅっと鳴った。
山姥切からもらったトマトを小川で軽く洗い、かぶりついた。
完熟のトマトはぬるくて甘かった。
そして、山姥切の優しさが沁みてまた泣いた。
かなり立派なサイズだったのに、あっという間に食べ終えてしまい、手を洗ってまた木陰に戻る。
どうしたら、いいんだろう。
膝を抱えて座り込んで屋敷の方を見た。
何人かの男士が縁側を走って行ったのが見えた。
この距離だと誰かはよくわからなかったけど。
楽しそうでいいな。みんなの笑顔、守りたいな。
だけど私にそんなこと出来るのかな?
清光のことはすぐ泣かせちゃうし、みんなすぐに喧嘩させちゃうし。
ただ酔っぱらって騒いでひっかき回すことが得意な何の役にもたってないダメ審神者だもんな。
ぼんやりと空を探すように木を見上げていると、
「主、こんなところにいたのですか?」
急に声がして視線を動かした。
そこには戦闘服姿の一期。
「帰ってたんだ」
一期は遠征に向かっていた部隊長だったはずだ。
「えぇ先ほど。報告に主の部屋まで赴きましたが不在でしたので探して参りました」
「そっか。お帰りなさい。お疲れ様」
あとでもいいのに真面目だよなぁ、なんて思っていると、
「…実は包丁より主が泣いていた、と聞いたので失礼を承知で参ったのです」
私の隣に少し距離をおき腰を下ろしながら一期はそう言った。
「落ち着かれましたか?」
「だいぶ、ね」
「ここはいい場所でしょう?私も弟たちのことや他のことで頭がいっぱいになった時によく来るんです。ここにくれば少し気が休まりますから」
一期は私ではなく屋敷の方を向いて喋る。
敢えて見ないようにしてくれているのかもしれない。
「ところで先日から、男士たちの手入部屋行きが減っているのをご存知ですか?」
一期が聞いてきた。
「…うん、知ってる」