第5章 jackal
「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」
このままここで泣いていてもみんなに心配かけるだけだ。
昨日大倶利伽羅に迷惑だと怒られたばかりじゃないか。
厨を出ようとすると、
「待て。これを持っていけ」
山姥切がトマトを差し出してきた。
「食事は残ってないが、トマトならあったから。何も食べないよりはマシだろう」
「あぁ、そうだね。気付かなかったよ」
光忠もそう言った。
「あんたは自分ひとりで抱え込みすぎなんだ。だが、言ってもどうせ直さないだろう?…なら泣くだけ泣いて気がすんだらまた戻ってくればいい」
山姥切から真っ赤に熟れたトマトを受け取って泣きながら厨を出た。
優しすぎる。みんな、優しすぎて苦しい。
縁側から外に出ると、ひと気のないところを目指して歩いた。
涙はやはり止まらない。いつか止まるのだろうかと疑問に思うくらい。
大人でもこんなに泣けるんだと思うと妙におかしくて少し笑いながら涙を流した。
馬小屋を過ぎて畑を過ぎて、そのもっと奥。
この本丸の敷地がこんなに広いなんて知らなかったってくらい歩いた。
暑くて暑くて、日陰を探しながら。
振り返ると屋敷はかなり遠い。
向こうから私がこんなとこにいるなんて見えないんじゃないかってくらい。
小川まであるのを見つけ、その脇にあった大きな木陰に入ると、風が心地よかった。
直の日差しがないととても過ごしやすい。
木の幹を背もたれにして座り、しばらく泣いた。
別に清光や鶴丸や石切丸のことが嫌いなわけじゃない。
どちらかと言えば好きだ。
みんな私に優しくて、私を笑顔にしてくれて。
大切な存在なのは間違いない。間違いないはないのだけど、節操なくそういう行為をする自分が許せない。
旦那はともかく、たまに子どものことがチラつく。
最低の妻であり、最低の母であり、最低の審神者だ。
だけど、審神者として働いている限りその責任は果たしたいとは思っている。
大切な存在の刀剣男士たちに傷ついて欲しくなんかない。
だから私が受け入れることで彼らを守れるのならそうすべきなのだと判ってはいるはずなのだ。
ただそれが痛みを伴うとか、苦労をしなければならないとか、頭を凄く使うとかそういうことじゃなくて、快楽を与えられるということ、それがまだ理解できていない。
せめて他のことならよかったのに。