第5章 jackal
私だってこんな予定じゃなかった。
思いがけず残る羽目になってしまったのだ。
「うぅー…お腹空いた」
光忠を困らせるとは判っていても口にしてしまうと、
「主お腹空いてんのか?」
ひょこっと包丁が厨に顔を出した。
「ならお菓子あげるよ」
鞄を開けながら私の傍までくると、飴を差し出してくる。
包丁の大事なお菓子なのにもらってしまうのは…。悩んでいると、
「自分で食べらんないの?じゃあほら、あーん」
包みを剥がして私の口に押し付けてきた。
思わず口を開けてしまうと、中に押し込んでくる。
「…ありがと」
「どーいたしまして。その代わり今度また俺と背中流しっこしよーなっ」
満面の笑みで言ってくれる。
この子たちの笑顔を守りたいエゴのために、私はあんなことしてるんだ。
純粋と、不純と。矛盾してる。
清光のときにはそんなことも知らずただ滞在時間を長くするためだと理由をつけていた。
私の審神者力を性行為で強制的に上げ時間の問題以上も強めているのを知っているのは多分、石切丸と三日月、小狐丸、あと鶴丸だけのはずだ。
光忠と清光はそこまでは知らないはず。
そしてその他の男士は私の滞在時間を延ばすことができるということすら知らないだろう。
目の前でニコニコ笑っている包丁。
守りたい、と思うのは確かだ。それは嘘じゃない。
だけど、そのためにセックスを繰り返さなきゃいけないなんて、割り切れない。割り切れるわけない。
みんなにハグされたりするのはなんとなく慣れたし受け入れられるけど、やっぱり…。
「割り切れる、わけない」
じわっと目頭が熱くなり、ポロポロと涙がこぼれる。
掌で顔を覆った私に、
「主様!?どうしたんですか?」
「主?飴美味しくなかった?」
慌てる物吉と心配そうに下から顔を覗き込んでこようとする包丁。
「ちがぅ…美味しい、よ」
「そうなのか?じゃあ腹が痛いのか?」
恐る恐る私を抱き締めてくる包丁。
「包丁ちゃん、ありがと。ごめんね」
「なんだよ主、なんか悪いことしたのか?」
俺わかんないけど、と言いながら身体を離した。
「何かツラいことがあったのですか?」
物吉の問いに私は首を横に振る。
「ボクでよければ、主様のために力をお貸ししますよ」
「…ありが、と」
涙は止まらない。感情が壊れてしまったみたい。