第5章 jackal
玄関を開け、本丸に入る。
こちらも夜は明けていてすっかり陽も高くなっていた。
気温もほどよく上がっている。
昼前だからか厨からはいい匂いが漂ってきていた。
とりあえず仕事して帰ろう。
三条の刀たちには私が来ているのはバレているだろうけど、誰にも会いませんように…願いながら審神者部屋まで歩いた。
襖を開けると、
「よぉ、主。やっときたか」
和泉守が机に向かって仕事をしていた。
「今日の近侍兼さん?」
「あぁ、そうだ。とりあえず帰ってきた部隊の報告書は書いたぜ。昨日の京都市中もついでに」
そうだ。昨日は出迎えたまでで放置していたんだった。
「ありがと…」
「いいってことよ。それと、ここの部隊編成だが」
と計画表を広げ、
「昨日短刀たちを市中に行かせた分を考慮した方がいいと思うんだが」
「なるほど」
和泉守の意見を聞きながら部隊編成を見直した。
「ところで主、今日は二日酔いじゃねぇのか?」
「うん。平気。兼さんは?」
仮に二日酔いだったとしても私にとってはもう充分すぎるほどの時間が経っていた。
「オレは平気だ。気付いたらまた寝ちまっててな。ほとんど記憶はないんだが、朝からやたらと男士たちが大般若かっこいい、大般若男前って大般若長光を讃えまくってるんだが何があった?」
「あぁ…」
確かにちょっとかっこよかったよな。
「男前だったんだよ」
「だからその内容をだなぁ!」
少し苛立ったように言う和泉守。
なんて説明したらいいんだろうかと悩んでいると、
「じゃあオレとどっちがかっこいいんだ?」
「大般若さん」
和泉守のその質問には即答できた。
「なっ…!!主!?」
「あはは。とにかく男前だったんだよ!気になるんなら他の男士に聞いてみたら?」
「聞いても誰ひとりまともにゃ答えてくれねぇんだ。泣いてる主を宥めたーだとか、言い回しがイケてたーとか曖昧な…」
まぁそうだな。
「じゃあ今度は寝ずに見てたらいいじゃん」
「それもそうだな。主次はいつ呑む?」
とんでもなく明るい笑顔の和泉守に、
「…私はしばらく身を潜めようかと…」
「はぁ?マジで意味がわかんねぇ!あんたがいないと本丸成り立たねぇだろう」
「大丈夫よ、兼さんのお陰で出陣計画立てれたし。なんなら明日と明後日も…」
完全に逃げ腰になってしまう。