第4章 解けない魔法
長谷部はすぐに清光のところまで向かい、渋る清光を私のところまで引きずってきてくれた。
「なになに?清光やっとこっち来たの?」
気づいた安定もこちらに来た。
「何?俺、主に用とかないんだけど」
そっぽを向いて言いながら前に座った。
その瞬間、わずかに空気が変わる。
周りの男士たちが私と清光とのやりとりを気にしているようだった。
「清光が私を嫌いになってもなんでも構わないんだけど、理由だけは聞いてもいいかな?」
あまりにもよそよそしすぎる最近の清光の態度。
普段なら黙って様子を窺うところだが、酒の勢いか聞かずにはいられなかった。
「…俺は別に主を嫌ってないけど…」
「けど?」
「…だって」
下唇を噛んで俯く。
「主、モテるじゃん。俺じゃなくてもいーんじゃん。俺は主の不調にだって気づけないし…」
不調?不調なときなんて最近あったっけ?
疑問符を浮かべていると、
「多分主が部屋の入り口で倒れてたときのことじゃない?」
安定が言った。
「俺は気付けなかったのに、石切丸はちゃんと気づいてたし、主あのとき石切丸の部屋で寝てたし」
「清光は出陣してたじゃない」
「そうだけど!!あれ絶対俺のせいじゃん!」
ぱっと顔を上げて私を見た。
「加州清光さんのせいだなんて、一体何をしたんだい?」
にっかりが問う。
「それは…」
清光は言葉を濁した。
「主に…」
また俯く清光。
「加州さん、主は君のことをとても心配していたよ?」
石切丸の部屋で目覚めた後、私は石切丸にこの先どうすべきかの相談もした。
清光にとってこの選択は正しかったのか、とかこれから先の清光との接し方とか。
「君が傷ついてないといい、とそればかりを口にしていた。それほどにまで主は加州さんのことが特別なんだよ」
初期刀だからってだけじゃない。いつも距離感が近くて私を好きだと言ってくれる清光の存在が私の日々の支えになっていた。
一線を越えてしまったことでそれが崩れるのが怖くて仕方なかった。
だけどそんな予想を裏切らず、清光は私を避け始めた。
「私…寂しかったんだからね」
ぶわっと涙腺が弛み、目に涙が溜まる。
「主っ!?」
気づいた清光が焦る間に、
「だからあんたは酒を呑むなと言ったんだ」
脇差たちを振り払って大倶利伽羅が私の腹に腕を回し引っぱり上げた。