第4章 解けない魔法
それから30分程度経った頃。
「主はこの長谷部をもっと頼ってください」
ほどよく酒の回った長谷部が不満を垂れ始める。
「あのアホ鶴だとか、風紀を乱しかねん燭台切だとか。おまえもそうだにっかり。主を何だと思っているんだ」
私だけでなく他の男士の不満まで口にし始めた。
「僕かい?僕は主は主だとしか思っていないよ?」
「その態度が主に対する態度か!?」
抱きついていることに対して言っているようだ。
「そうだねぇ。僕の心が主を抱き締めたいと言っているから素直に従ってるとでもいうのかな」
私の持っているお猪口を使ってにっかりも酒を呑んでいる。
空になれば私の手に戻し、物吉が注ぎ、私が少し口をつけたところで奪いとるのだ。
「へし切長谷部さんも主を抱き締めてみたいんじゃないのかい?柔らかくて温かいよ?」
「そうそう。僕も主さん抱き締めるの大好き」
堀川が私の右腕に抱きついてきた。
「堀川!!」
「素直になっちゃいなよー。誰も咎めませんよ?だってここにいる男士たちみーんな主さんのことが大好きだって顔に書いてありますし」
ひひっと笑いながら言う。
「これだけ男士がいるんですよ?いかに他を出し抜けるかが大事じゃないですか?」
「さすが堀川様!邪道中の邪道ですね!」
物吉が最高の笑顔で言った。絶対誉め言葉じゃないと思うけど。
「長谷部おいで」
私が声を掛けると、目の前に来て膝をついた。
「いつもありがとう。長谷部がいてくれるから回るんだよ、この本丸。私から頼らなくても長谷部が自発的に動いてくれるから私はとても居心地がいいの。実はずっと長谷部に頼りきりなんだよ?気づいてた?」
と聞いた私に、
「有り難きお言葉。長谷部は幸せです」
「だからー」
両腕を広げると、恐る恐る近づいてきた。
「長谷部はいいこ。いいこだー」
がしがしと両手で頭を撫で回してやった。
「良かったですね、長谷部さん。これで立派な主さんの飼い犬ですね!」
堀川が長谷部に言う。まだ私の腕に抱きついたままだ。
「で。長谷部もう一度おつかい頼んでいいかな?」
「なんなりと!」
飼い犬と言われたことは気にならないのだろうか?更に忠犬っぷりが上がっている。
「清光召集かけて?」
「加州を、ですか?」
「そう」
「えー…清光さん呼んじゃうんだー」
堀川が嘆いた。