第4章 解けない魔法
そろそろかな。
短刀くんたちが出陣していきしばらく経つ。
夕食作りもあらかたゴールが見えてきたので私は途中で戦線離脱し、短刀くんたちを待つために玄関に腰を下ろしていた。
それに気付いたのは物吉で、私のとなりにちょこんと座り、
「ボクがここにいれば主様に幸運を運べますか?」
「うん」
「ではボクもここにいますね」
勝利を運ぶ…物吉は自分の名前の由来を精一杯信じようとしているみたいだった。
「ねぇ物吉くん」
「はい?」
「物吉くんはお酒は呑める?」
私が聞くと、一瞬物吉の頬がひきつったように見えたが、
「ボク、呑めます!」
言いきってくれた。しかし、
「…酒豪主様のお相手になれるとは到底思いませんが」
「酒豪…」
そうだ。数日前に鶴丸に酒豪主のレッテルを貼られたんだった。
「私と同じペースで同じ量呑めとか、そういうんじゃなくて今夜遅くまでここに居られるから、みんなでお酒呑みたいなぁって思ったんだけど…」
「そっっ、そうだったんですね!ごめんなさい。ボク勘違いを…」
焦る物吉。
「いーよいーよ。お酒好きなのは事実だし、以前若干飲み過ぎて妙な空気にしたのは私だし…」
「はい…」
あのとき広間にいなかった男士たちにどんな風に伝わっているのかは知らなかったけども。
「でしたら是非ボクにお酌させてください」
「ありがと」
優しい前向きな物吉が側にいてくれたお陰で、短刀くんたちが帰ってくるまで不安になることはなかった。
それが良かったのか、
「大将、無事帰還したぜ!」
「人妻ーー!俺がんばったぞ!なでなでしてくれー」
「あるじさま、僕たち強くなってました!」
怪我もせず戻って来てくれた。
「おかえりなさい。私の自慢の短刀くんたち!」
言った私に、
「主の力が凄く感じられた。…ありがとう」
ぼそりと小夜が言い去って行った。
小夜はなんとなく野生の勘が強そうだ。
私の力が増している、というのに気づいたのか、それともあちらも勘が強そうな宗三に言われたか。
どちらにせよ、無事に帰還してくれたことに安心した。
「大将泣いてんのかよ」
まとわりつく包丁を撫でていると、厚がそう言って私の頭を撫でた。
厚の身長は私とほぼ変わらない。
「母親の感情が…」
「実際母ちゃんだもんな。間違っちゃいないだろ」
厚は笑った。