第3章 mistake
「君がここにいる時間を長くして力が安定して供給されている、というのはこの本丸にとっては利点の方が明らかに多い。だけど…」
また少し悩んで、
「それには主が誰かに抱かれないとならない。君の気持ちはどうなんだい?数週間前あんなに悩んでいたし、一昨日の晩もかなり苦悩しているように見えた。いくら私たちが物であり付喪神であるからと言っても君の中ではそんなに簡単に折り合いがつかないのでは?」
私の心を心配してくれていた。
「そう、ですね…」
「それに加州さんひとりだけで済むとは思えない。この本丸は表現の仕方は違えど似たような感情を抱くものばかりだ。主は多数とそうなることを受け止めきれるのかい?この私だって…」
そうか。清光を受け入れてしまった、ということはとんでもない一線を越えてしまったことになるのか。
「主が加州さんに抱かれたというので私の心が朝から激しく乱されていてね。小狐丸さんもそうだろうけれど」
いくら祈祷をしても晴れないんだ、と悲しそうに眉を下げた。
「…ごめんなさい」
謝る以外の言葉がでてこない。
だけど私がここに少しでも長くいるためには必要なこと。
少なくても夏休みだとか、長期に渡り時間が取れない期間中は特に。
「とりあえず報告なのだけど、今日の出陣で帰ってきた部隊は誰ひとり怪我をしていない。みんな力が上がっている。これは明らかに主の力が大きいと言える。君がここの男士を強くし、守っているみたいなんだ」
私が寝ている間にみんな戻ってきて、近侍の石切丸が代わりに聞いてくれていたらしい。
「だから君の気持ちを無視した上に自分勝手で申し訳ないのだけど、続けて欲しい」
「え?」
「私は、いや私たちは主のことを心から慕っている。だから主も私たちのことを好いていてくれるのであれば、同衾に応じて欲しい。そして私ともそういうことになるのを拒まないで欲しい」
本丸の強さの維持、仲間のため、そんな責任感が伝わってくるような言葉だった。
美しい所作で頭を下げる石切丸に、
「…わかりました」
そう返事をするしかできなかった。
「だけど主の身体が心配だから、他のものには言わないでおこう。そうすれば君の心と身体の負担も少しは軽減されるだろうしね」
さぁ、もう一眠りするかい?と石切丸が腕を広げる。
それに対して私は静かに首を横に振った。