第3章 mistake
石鹸と手拭いを使って背中を洗ってくれたあと、
「きれいになったよー!次は俺の番ね!」
素早く私の前に回り込んで背中を見せてしゃがむ包丁。
「はいはい」
タオルを無理やり前で押さえつけたまま、受け取った手拭いを使い片手で背中を洗ってやった。
「主ありがとー!五虎退、風呂戻ろうよ」
「はい」
満足したらしい包丁は五虎退を連れて去っていく。
私は背中を洗ってもらっただけでまだ頭も顔も泥だらけだ。
漸くカピカピになっていた泥を流しさっぱりしたぁと湯船の方を振り返ると、4人分の視線が私に突き刺さっていた。
一期と大倶利伽羅は別な方向を向いていたが。
「…見てたの?」
「おんしのケツは安産型じゃ思うての」
陸奥守の言葉に頷いている長谷部。つい溜め息が出てしまう。
とりあえず私もお湯に浸かろう、湯船の端から脚を入れると、
「大将濁り湯だからタオルは要らないんじゃないか?」
薬研がニヤリと口の端を上げながら言った。
「薬研!」
一期が薬研を咎めてくれたが、
「…薬研たちには濁り湯意味ないって知ってるからね?でもまぁタオルを浸けるのはなぁ…」
恥ずかしながらタオルを外した状態でお湯に浸かることにした。
開き直りも大事だ。
「いーねぇ主。潔いじゃないか」
「だからってガン見は恥ずかしいから!」
凝視してくる鶴丸を睨み返した。
もうやだ。何が楽しくてイケメンたちと風呂に入り醜い身体を晒さなければならないんだ。
苦行でしかない。
お湯のなかでまた膝を抱え、景色に視線を投げると、
「あんたには警戒心ってものがないのか?」
少し離れた場所から大倶利伽羅が聞いてきた。
「…捨てた」
「は?」
「警戒しても無駄みたいだし」
気づけばソロソロと鶴丸が私のすぐそばまで近づいてきている。
「どうせババアなのは変わんないし、こんな弛んだ身体でも見てくれる人がいるのを喜ぶ…べきではないだろうけど…」
もうすぐで鶴丸と肩が触れ合う、というところで私は少し移動した。
そのせいで一期との距離が詰まる。
一期はまったくこちらを向かないが、耳が驚くほどに赤くなっていた。
「意味がわからない」
そう言って大倶利伽羅は話を打ち切った。
私にだってわからない。
だけど私と風呂に入りたいと言ってくれるのを拒むのも今さらな気がしていた。