第1章 プロローグ
そして見る間に頬に熱が集まってくる。
「息してください。主さん顔真っ赤ですよ?」
からかうように笑って堀川は手を離してくれた。
「…もー。てか今朝清光にもそう言われた」
撫でられた頬を自分の掌で押さえながら言うと、
「さすが清光さん。ちゃんと気づいてるんですね」
「ん?どういうことだい?」
「主さん、家のこともあるし、僕たちの審神者としての仕事もあって疲れてるはずのにどんどんキレイになってくんですよ?どうしてだと思います?」
光忠の疑問に質問で返す堀川。
「僕には判らないけど…」
「俺も、判らない」
うーんと悩む光忠と山姥切の目の前で、堀川はぎゅうっと私を抱き締めてきた。
「っっと、堀川くん?」
「清光さんばかりズルイです。僕も主さん抱き締めてたいのに」
そんな堀川の行動にまた私の心臓は早打ちを始める。
「ふふっ、ドキドキしてますか?でもこれが主さんのお肌の調子を良くする要因のひとつですよね?」
どうしていいのか判らず抱き締められたままの私に、
「そうなのかい?主って案外…」
「…乙女、なんだな」
追い討ちをかけるように言われ、恥ずかしさで堀川の肩に顔を埋めた。
正直、旦那との間にトキメキなんてもうない。もうすっかり家族だもの。
子どもだってある程度大きくなっちゃったし。
「僕たちのせいで主さんがキレイになってくのが僕は嬉しいんだ。だからここでは目一杯乙女でいてくださいね」
本丸の男士たちはやたらと私に甘い。
もう30も過ぎてそこそこのオバサンなのに、私をひとりの女の子として扱ってくれる。
彼らにとっては30才過ぎなんて赤子みたいなもの、らしい。
とはいえ、私に彼らは忘れてたトキメキを与えてくれるんだ。
「そうかぁ。こりゃ驚いた。どれ堀川、俺にも主を抱き締めさせてくれないか?」
急に後ろから声が聞こえて私は堀川から引き剥がされた。
「あ、鶴さんおはよう…」
真っ白な内番着の鶴丸が私の向きをくるりと変えて抱き締めた。
「おはよう主。朝から面白いことしてるんだな」
「ぅぅぅ、面白くはない」
ただただ私は鼓動を早めて血液を全速力で巡らせているだけだ。
またしてもからかわれているような感覚に陥り、抵抗もせず息を止める。
「さぁ今日の近侍は俺だし、仕事を始めようじゃないか」
私を離し肩に手を置いた。