第1章 プロローグ
「光忠はほんと料理上手いよね。でもたまには嫌にならないの?」
相変わらず優しくて美味しい光忠の朝食。
しっかりと食べ終えて片付けを手伝いながら聞くと、
「それいつも聞いてくるよね?だから何度か考えてみたんだけど嫌だ、とかは感じないかなぁ。面白いって思う方が強いんだよね」
清光は安定に引き摺られて着替えに行った。
厨には今、私と光忠、堀川と山姥切がいる。
光忠のこの考え方、感じ方は正直私には驚きしかなかった。
あっちの世界ではどうしてもどこか私ばかりが頑張ってる、だとか毎日面倒だとか、そんなことばかりが先行するようになってたから楽しいなんてのはもう数年前からあまり感じていなかったからだ。
「主が幸せそうな顔してくれるしね。それに僕は料理以外の家事はあまりしないし」
好きで得意なことやってるから苦じゃないらしい。
「僕もそうかもです。男だからですかね?好きなことは突き詰めちゃいたくなる」
すすいだ食器を拭きながら堀川が言った。
「そっかぁ、男だから、かぁ」
刀とはいえ男士だもんなぁ。
女の私とは考え方が違って当然ということか。
「その証拠に料理苦手な男士は一切手を出さないでしょ?」
確かに同田貫とか蜻蛉切、それに他の新選組の刀はここでは見かけない。
長谷部すら、だ。
それぞれが得意なことをそれぞれの場所で生かす。そんな柔軟に考えられないくらいやっぱ結婚生活は肩に力が入ってたんだろうなぁ、なんて思った。
まぁここに通うようになって少し私の考え方も変わり、あっちの生活も少し穏やかにこなせるようになってきたのも事実。
「僕には主の世界の考え方とか基準はわからないけど、ここにいる間は忘れちゃってもいいんじゃないかな?」
「…俺もそう思う」
だから私はその言葉を素直に有り難く受け止めることにした。
小さく頷いていると、
「主さん、最近なんかお肌の調子よくないですか?」
片付けを終えた堀川が急に私の頬に掌を当ててきた。
私とは違う男性のごつごつした掌。
「おい兄弟!」
「なんか初めて会ったときにはもっとくすんで荒れてたなぁって思うんですけど?」
堀川は割と早いうちに顕現した刀だ。
私の頬を撫で回しながらそう言う。
正面で大きな目を合わせながらの行動に思わず呼吸を止めてしまった。