第1章 プロローグ
私には現実世界に家族がいる。
旦那と子供がふたり。
早朝から炊事洗濯掃除とばたばた走り回って、この本丸へと出向いている。
所謂パートタイマー審神者というやつだ。
ここでの仕事は非常にゆるやかで、朝のばたつきを全て忘れることが出来る。
主婦としてのストレスも、母としてのなにもかもさえも少し和らぐ。
そして、毎日自分で食事を用意し食べているからこそ、私以外の作ってくれる食事はありがたくて美味しかった。
「片付けは手伝うから」
清光と並んで座り朝食を前に私が言うと、
「そうだね。今朝の食事も主の口に合えばお願いしようかな」
なんて光忠が笑ってくれた。
断る、のとは違う優しさのある言葉。
奥底に眠る女が甦る瞬間。
私にとってこの本丸はトキメキをくれる空間。
忘れかけていた感情を取り戻せる場所。
だから今、毎日が楽しくて仕方がなかった。
「主さん、僕も隣いいですか?」
仕事が済んだらしい、堀川が清光とは反対隣に陣取ってくる。
もちろん、と頷くと、
「じゃあ僕は前をもらおうか。…席のことだよ?」
正面ににっかりが美しく正座をしてきた。
私の本丸には40振近くの刀剣男士がいる。
はっきり言って大所帯だ。
だからと言ってみんなが同じ時間に食事をとるわけでもなく、今広間にいるのは10数振程度。
三条の方々と短刀くんたちや朝が早い刀たちはほぼ私が来る前に食べ終わっているし、朝が弱い刀たちは朝食はあまりとらない。
食事を用意してくれた光忠と堀川、それに清光とにっかり、和泉守、蜂須賀に歌仙、山姥切、陸奥守、物吉、そして安定が私と共に食事を摂ってくれている。
「今日は主、遅くまでいられるんだって」
「そうなのかい?夕食も食べていける?」
「光忠がいいんなら…」
「僕は大歓迎だよ!ぜひ一緒に食事しよう」
光忠の言葉に、一緒に食事をしていた各々が頷いてくれた。
こちらでの時間の流れは元の世界の約2倍程度のずれがある。
例えばこちらでの8時間くらい勤務していたとしても、元の世界では約4時間。
だから私がたっぷり本丸で審神者としての仕事を満喫して帰っても、現実世界での生活にはほぼほぼ影響がでないのだ。
1日の長さが24時間より長くなっているおかげで夜もよく眠れる。
とても充実した日々を送らせてもらっていた。