第2章 ユメひとつ
「主が若返ることはあっても老化のスピードが上がることはないと思うよ?」
清光はそう言って身体を起こし、私も引き起こしてくれた。
「実際今だって老けた感じないし」
「まだ数ヶ月だから判らないだけだよ、きっと」
毎日のように見てるから判らないだけなんじゃないのかな…。
「違うって。それが審神者力ってね」
ぱちんと右目を閉じて言った。
「ここにいて、俺たちに愛されて、主が身体中の血液を勢いよく巡らせてるだけで凄い若返りの効果があるんだよ?」
知らなかった?と聞いてきた。
「…知らないよ。どうせまたからかってるんでしょ?」
「からかってないって!主は俺たちと長い間一緒にいてもらわなきゃいけないんだよ?だったら簡単に老けられたら困るじゃん。だから俺は主にこうして抱きついてー」
ーー好きだよって言うの。
耳元で囁いた。
胸が苦しくなる。切ない締め付け。ゾクゾクと身体の中を電流のようなものが走った。
「清光っ…」
その感覚を逃そうとぎゅっと目を閉じてしまった私にまた柔らかく触れる清光の唇。
「また長い時間こっちにいれたらたくさん一緒にいられるね」
ふふっと笑う清光はとても可愛かった。
だけど私、その方法ちゃんと聞いてないな。
また三日月か…石切丸に聞いたほうが判りやすく教えてくれるかな。
でもとりあえず、
「今は時間がないから、そろそろ帰るね」
「そっか。そだよね。また来るよね?」
立ち上がると淋しそうな目をする。
「うん。いいこしてるんだよ、清光」
「…わかった」
審神者部屋を出て清光に見送られて玄関から元の世界に戻った。
時計を見ると行く前から40分しか経っていない。いつも通り2分の1。これが私の通常の審神者力というものなんだろう。
これだけでも結構不思議なんだけどなぁ、なんて思いながらそのまま洗濯物を取り込んで、娘たちを迎えに行くまでに夕食の下拵えをした。
季節は夏。
まとわりつく空気も陽射しもなにもかもが暑い。
そういえば向こうは暑いとはいえここまでじゃあないよなぁ、なんて思った。
こっちよりも湿度が低くカラッとしている気がする。
風通しがいいのかな?
こっちもあのくらいなら過ごしやすい夏になるのに、なんて夕方になっても下がらない気温を恨めしく思った。
多分今夜も熱帯夜だろう。