第20章 Don't worry,don't worry
その日、清光が戻ってきたのは昼を大きく下がってからだった。
バタバタと私の部屋に飛び込んできた清光。
薬研に抱かれた後、昼食も摂り火照りも収まっていた私に、
「慧ちゃんっっ」
言いたいことはたくさんあるのだろうに、うまく言葉にならないのかただきつく抱き締めてくる。
「ごめん、遅れた。もう間に合わない?」
清光に聞かれて、
「出陣ありがとう。お疲れ様」
言って抱き締め返した。
「戻っちゃう…の?」
「戻らないよ。まだ、石切さんに会ってない」
力強く返す。
当初の予定ではあと1週間くらいは猶予があるはずだ。
「だけど…」
「大丈夫。ちゃんと延長できてるから」
「…誰?」
清光の質問には答えられなかった。口を閉ざした私から清光は離れ、机の上に出しっぱなしだった出陣計画に手を伸ばす。
それを確認して、
「該当者がいないんだけど」
私に向き直った。
「でも、大丈夫なの」
泣きそう。
頭も痛い。眠い。
よく判らない感情に支配され始めた涙を流す私に、
「ごめん」
言って抱き締めた。
「出陣計画立てるの失敗しちゃった」
力なく言うと、
「しょうがないよ!今までは俺出てても間に合ってたんだし!!」
「私、やっぱり審神者向いてない」
「そんなこと言わないで」
「だけど、今戻っちゃうと石切さん…」
「うん。きちんと慧ちゃんの力、この本丸に満たしておかないと折れちゃう」
結局教えてもらった。どういう状況なのかしつこく聞いて。
だから私はここに居なくちゃならない。
「もし折れたら?」
でも、怖くてこの先は聞けていなかった。
「今の石切丸は消えるよ。もし次に鍛刀できたとしても別の石切丸。初めましてになっちゃう」
割と想像してた通りだった。
私を助けてくれた代償に折れて知らない石切丸になってしまうのは耐えられない。
私を知って、愛してくれた石切丸に逢いたい。お礼が言いたい。
左手の指輪に触れて握りしめた。
「大丈夫。きっともうすぐだから」
私の背中をさすって慰めてくれる。
「清光…」
「ん。今日はもうずっと一緒にいるよ?だから不安にならないで」
薬研のこと、石切丸のこと。
いろんなことが重なって涙が止まらなくなってしまう私の感情を清光が優しく包んで整えてくれているような気がした。