第19章 Get your Dream
茶室から出て草履を履いた直後、ぽろっと一粒落ちた涙。
着物に吸い込まれて消えた。
「あー…」
晴れ渡った青い空を見上げながら、屋敷に向かって歩いた。
戻ってきてからの私はすごく情緒不安定だ。
帰る前の方がよっぽど安定していたかもしれない。
ひと月もこんな感情で乗り切れるのだろうか?
毎日のように泣いて毎日のように気を乱しているのではないだろうか。
みんなの好意が怖い。
私なんかの何がいいんだろう?
前の関係に戻った方が幸せじゃない?
すんっと鼻をすすり上げて涙を拭った。
左手の指輪が光る。なんとなく重く感じてそれを外した。
一度審神者部屋に戻ると、それを机に置き、髪飾りも帯留めもピアスも外した。
そして代わりに財布を手に取り袂にしまった。
審神者部屋から出ると、大倶利伽羅に買ってもらったものとは違う草履を履き、誰にも見つからないように裏口に向かった。
玄関から元の世界に帰る訳じゃない。少しひとりで出かけるだけだ。
昨日、一昨日と歩いた道を辿りながら町まで向かい、ひとりで甘味処に入った。
そして昨日と同じパフェを注文する。
今日はひとりで全部食べてやる。きっとすっきりするだろう。
モヤモヤしたときにはひとりの時間が必要だ。
ここに来ている間はあまりひとりの時間がない。
いつも誰かが傍に居たように思う。
それはそれでありがたいけど、私は自分の性格上ひとりの時間がないと息が詰まってしまう。ストレスが溜まってしまう。
周りなんてちっとも見えていない私は、パフェにひとり舌鼓を打った。
甘いもので満たされた気持ち。だけどまだ足りない。
甘味処を出ると今度はお店でも見て回ろうと散策を始めた。
ふらふらと見回っていると、
「ひとりなの?」
急に声を掛けられて振り返ると知らない男性。
「?」
「ただの人間が護衛も付けずに町に出ると危ないって言われなかった?」
そう言ってニヤリと笑うと私の手首を掴んで路地に引き込んだ。
「え?」
「あんたは美味しそうな匂いがする。人間を食べられるなんてラッキーだよね」
動けずにいると、そのひとは目の前で大きく口を開けた。
真っ赤なその口の中に牙のように尖った歯が見えた直後、着物の合わせを開き左の肩口に噛みつかれた。
「った…ぃ」
噛みついたまま力を込められて喰い千切られそうだ。