第19章 Get your Dream
「おい慧」
鶴丸の声が聞こえた気もするがもう無理だ。
少し寝てから謝ろう。
暫くして漸く目が覚めた私の目の前には見たことのある着物。
驚いて身体を起こすとやはりそれは蜂須賀のものだった。
「っ、ごめんなさい!!」
蜂須賀に膝枕をしてもらっていたらしい。
「いや。もう起きるのか?早いな」
「あ、はい。目覚めました」
お茶の道具は既に仕舞われていて、鶴丸と鶯丸は普段使いの湯飲みを前に喋っている。
「慧おはよう。目覚めに一杯飲むかい?」
気づいた鶯丸が勧めてくれた。
「鶯丸さん、すみません。せっかくのお茶のレッスンだったのに台無しにしてしまって…」
「いやいや。理由は判っているからね。次は慧の昼寝が済んだあとに始めようね」
泣きそうな私に優しくそう言ってくれた。
「…ほんとはこんな風に迷惑かけてしまうからもう止めたいんです」
ぼそりと言うと、鶴丸が目を見開く。しかし口を開いたのは鶯丸で、
「迷惑だと誰かが言ったのかな?」
「…それは」
「慧はこの本丸のためにしているのだろう?それに対して俺たちは文句を言いようがないのだけど」
あまり抑揚のない言葉を並べる。
「俺は止めないでいてほしいけどね」
鶯丸はそう言いながらお茶を啜った。その言葉に鶴丸は安堵したように見えた。
「俺は、慧が止めたいなら止めてもいいと思う」
しかし、私の隣で蜂須賀が切り込む。
「俺は先日三日月から聞いたことに納得がいっていない。どうにも慧の気持ちを無視した行為にしか思えない。ならば心が壊れてしまう前に手を打った方がいいのではないか?」
はっきりとそう言った。
「慧はどうなんだい?」
鶯丸が聞いてくる。
「…ごめんなさい。私には選べないんでした」
これは付喪神たちとの言霊を交わした契約だ。
ついポロっと出た弱音。拾って欲しかっただけ。
「蜂須賀さんもありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しかったです」
立ち上がった私に、
「また逃げるのか?」
鶴丸が聞いてきた。
「そう」
泣くんならひとりで泣く。
まばたきをしたら溢れてしまいそうで、目を見開いたままお辞儀をし、
「お邪魔しました。またお願いします」
言い残して茶室から立ち去った。