第1章 プロローグ
少し落ち着いてきてもぞもぞと鶴丸の胸から顔を上げると、今度は立ち上がった薬研と清光たちが対峙している。
「あんたらよぉ、俺たちに大将の背中にはでっかい鬼の刺青が入ってて目が合うと呪われるから誘われても絶対に一緒に風呂入るなって脅しかけてくれてたよなぁ?」
なんだそれは。刺青だと?
なんだか短刀くんたちが私から距離を置いている理由が判った気がした。
「あ、えと…」
清光たちがしどろもどろになっている。
「五虎退たちは騙されてビビってたけど俺がそんな嘘に騙されると思うか?大人しく騙された振りして機会を伺ってたんだが?」
薬研が清光の胸ぐらを掴んだ。
「打刀サンだか脇差サンだか知らねーけどよ、短刀舐めんなよ?」
また清光たちが喧嘩を始めてる。止めなきゃ。
鶴丸の腕から抜け出すと、まだ震える身体で立ち上がり薬研たちに近づいた。
「もう終わり!薬研もそれだけ言ったら気が済んだでしょ?」
「大将…!?」
「また泣くよ?」
んんーっと眉間に力をこめると、
「わあぁ、泣かなくていい!」
パッと清光から手を離した。
「やばい。折られるかと思った…」
清光の言葉に安定と堀川がコクコクと頷いている。
「清光たちも変な嘘つかないでよね!薬研も他の短刀くんたちによく言っといて!」
「そりゃ俺が誤解を解くのはかわまねーが、代わりに俺たちとも風呂入ってくれよ?」
「…」
私はなにひとつ悪いことをしていないはずなのになぜ私が代償を払わなければならないのでしょうか?
理不尽です、神様…。震えも止まりません。
「はいはいそこまでね。で、主ちょっと」
場を収めるように言って光忠が私を座るように手招きする。
なんだろ、と正座をすると、
「どうして刃物苦手なの黙ってたの!!?」
「!!」
「僕たち刀だよ!?刀剣だよ!?それ判ってるの?」
今度は光忠から私に説教が始まってしまった。
「主さん刃物が苦手だったからあの反応?」
「鶴さんがすぐ気付いて見えないようにしてくれたからよかったものの…」
悲しそうに眉を歪める光忠。
「ごめんなさい」
謝って俯いた。
「私、刃物恐怖症、なの」
「えぇぇぇぇ!?」
「だけど、みんなは刀剣だからそんなこと言えないし、その姿だと全然怖くないから、黙ってた」
そもそも口にすれば彼らを否定することになる。