第18章 Show Me The World
「恥ずかしいんだけど…」
「何をおっしゃりますか。慧さんの気はまだ乱れておりますよ?でしたら全く違う方向に視線を向けるというのもまたよいではありませんか」
そう言いながらつまんだおかずを口に押し付けてくる。
仕方なく口を開けて咀嚼した。
「狐面白いことをやっておるの?」
三日月が声を掛けてきたが、
「いくら三日月殿とはいえ邪魔だては許しませんよ?」
「邪魔がしたい訳ではないが、狐は存外可愛いところがあるのだなと思ってな」
「私は可愛いのです。可愛いゆえに慧さんに愛されるのですよ」
大きな身体で堂々とそう言い切る小狐丸は確かに可愛いが。
「全部そうするの?」
「もちろんです」
嬉しそうにまたおかずを差し出してきた。
「俺も慧にしてほしいものよ」
三日月が言うと、
「あなたにやると介護になりますよ?」
小狐丸が言う。
「なに、介護でも構わんさ」
喧嘩になるのかと思いきや三日月がさらりとそれを交わした。
「慧さん、もうお腹はいっぱいですか?」
しばらく食べさせてもらっていたのだがだんだんペースの落ちてきた私に聞いてくる。
「んー…なんかね、うん」
そんなに食べ過ぎた感はないのだが、頭がいっぱいというか胸がいっぱいというか。
「そうですか。それは残念です」
小狐丸が少ししゅんとする。
「小狐丸が食べる?」
代わりに箸を私が持つと、嬉しそうに口を開けてくれた。
「少し落ち着きましたか?」
食べながらそっと聞いてくれた。きっと乱れた理由は知っているのだろう。
「ん。まだ理解も納得もできてないこともいっぱいあるけどね」
「大丈夫です。何があっても私がお守りしますゆえ」
私の左手をとってその薬指に嵌まっている指輪に口づけた。
「小狐丸さん?」
石切丸が不快だと言わんばかりに咎めたが、
「私は慧さんの指に口づけたまでです」
言い返していた。
「ねぇ三日月さん」
「なんだ?」
「…ありがとね、いろいろ」
「俺は何もしておらんぞ」
大般若に聞いた話から三日月の優しさが伝わってきてはいたがやはり本人は認めないか。
「嘘つき」
悔しくてそう言うと、
「慧は大切な主だからな。俺なりに出来ることをしたまでだ」
大きな掌で私の頭を撫でた。