第1章 プロローグ
「ふぅん」
「ふぅんって、それだけなのか?」
私の反応に驚いたのは鶴丸で。
「だってまぁ、私の1日はすごく長くなってるってのは理解できてたんだけど、力を使ってるとかやっぱりよく判らないし、疲れても寝れば治るしご飯も食べられてるし、元気だしなによりご機嫌だし。春からここにきて、えぇっと…」
時間の感覚が違う分どのくらいだっけと首を傾げると、
「3ヶ月くらいだな」
「そうそう。一気に仲間が増えてとりあえずみんなの名前と顔と性格とか生い立ち覚えて仲良くなって。毎日頭パンパンで疲れて当然だとは思ってたし…」
「生い立ちって、子供かよ」
薬研が苦笑いした。
「まぁ、刀で付喪神でってのを理解するのには時間かかったけど」
「その割にあっさり受け入れたよな」
鶴丸が来た頃にはもう10振くらいになっていたから、あまり違和感がなかったのは事実。
「受け入れるしかないしね」
「初めの頃は大変だったんだぜ。何にも知らない大将を加州とか堀川がずーっとからかってて」
顕現が早かった薬研が思い出しながら笑う。
「あーそうだったかも。何もかもが初心者だったからねぇ。長谷部が早めに来てくれたからなんとか回るようになったというか…」
「まぁ長谷部くんは優秀だからね」
「光忠にもいっぱい助けてもらったよ。ありがと」
そう言うと光忠の目が嬉しそうに細くなった。
「でだ。結婚が意味を成さないってことなんだが」
「んー。石切さんの話だと物であり付喪神だからだって聞いたけど」
「そういうことだ。俺たちと何かあったところで誰が信じる?大将の世界で使ってる電子機器も使えない、証拠もない、そもそも俺たちの存在を押さえようがない」
あぁ、だから鶴丸が配偶者に黙っていれば問題ないと言っていたのか。
「物や神とどうにかなってそれを不倫と言えるかだ。例えば大将が何か物を使って欲を満たしたとして、それが浮気になるか?」
薬研の例えに私の頭は一瞬フリーズする。
「薬研くん…主は女の子なんだからそんなこと…」
慌てる光忠に、
「っても生娘じゃねぇし、なぁ。そんなことだってあるんだろう?」
またニヤリと笑って返す薬研。
「まぁ、そういうことだ。だからここじゃ大将は自分の身体と心に素直に正直に生きればいい」
「ははっほんと驚きの真実だな」
鶴丸が楽しそうに声を上げた。