第1章 プロローグ
そういえば光忠もいるし、何かと知ってそうな薬研もいる。
私の知らないことを聞くのにはちょうどいいタイミングだ。
「ねぇ光忠。さっき私は知らないことが多すぎるって言ってたじゃない?聞いてもいい?」
「そうだね。何が知りたいかい?」
急須からは冷たい緑茶が注がれ、グラスを傾けると渇いた喉を潤してくれた。
「何が、と言われても何を知らないのかが判らない」
そもそもだ。
「じゃあ質問を変えよう。主は審神者になるときになんて言われたの?」
「…見た目若い、ちょっと個性的な男の子たちの面倒みる、簡単なお仕事だって言われた」
確かそうだ。
元々私はコンビニでパートに出ていた。
そこによく来ていた常連のおじさんが急に話をしてきたのだ。
私を引き抜きたいんだ、と。パートにヘッドハンティングなんて変なの、とは思ったが、今働いているのと同じ時間で収入は3倍。
2倍程度時間の流れが違うとはいえ、ちょっと嬉しいお誘いだった。
「簡単なお仕事って、それだけ?」
「基本的には。あとはなんか連れられてきて清光に会って…あまりにいろんなことが一気にあったからよくは覚えてないんだけど」
いつの間にか私の家のクローゼットの奥と本丸が繋がっていて。
「怪しいとは思わなかったのか?」
薬研が言って和菓子を口に放り込んだ。
「うーん。ぶっちゃけなんとなーく仕事変えたいなぁって思ってたから、時間の条件変わらないんなら家庭に迷惑掛かるわけじゃないしアリかなぁくらいにしか…」
パートも暇潰しついでの小遣い稼ぎだったし。
「じゃあ昼食時にも言ったけど、ここにいるだけで力を使うってのは?」
「力っていうのが何か判らないけど…」
私はここで出陣計画をし、畑に出向き、報告を受ければ記録をとるくらいのわりと緩やかに過ごしているだけなので、特別何か力を使っているという意識はない。
「この本丸は大将の力あってのものだ。大将がここに来るのをやめてしまえば俺たちは消える」
さらりと恐ろしいことを言う薬研。
「まぁ典型的なので言えば主が元の世界に帰ったらこっちの時間の流れがかわるんだけど」
だから翌朝訪れると、こちらも同じ翌朝になっているのか。
なんだか少しややこしい。
頭がこんがらがる。
「それも私の力、だと」
「そう。この本丸を正常に動かすためのエネルギーは全部主」