第18章 Show Me The World
「行けるか?」
「あ、うん」
先程よりもかなりすっきりとしていて、部屋から出る私を厚は大人しく待っていてくれた。
机の上にあった金平糖を袂にしまい、大倶利伽羅の草履を履くと、
「今日なんか、いつもと違うな」
厚が言った。
そりゃそうだ。何人もの男に貰ったものを身につけて、純粋な少年と出掛けようとしているんだから。
「可愛い、と思う」
照れたように言って、私の手をとった。
瞬間何か歓声が上がった気がするが、周りを見渡しても誰もいない。
疑問符を浮かべる私に、
「気にするな」
それだけ言って手を引いて歩き始めた。
申し訳ないけど娘と大して変わらない年端にしか見えない厚と手を繋いで歩いていると、ほんの少し犯罪感が出てしまっているようでならない。
「暑いな、今日も」
「そだね。ねぇ厚はスイカ割りとかしたことある?」
「なんだよ、それ」
歩きながら何か話題を、と振った。
「畑にスイカ沢山出来てたからみんなでやろう?目隠ししてね、スイカを棒で殴って割る遊びなんだけど…」
「人間は面白いこと考えるんだな。いいぜ。短刀に勝てると思うなよ?」
厚がやる気になってくれた。
小川に無事辿り着いて、木陰にふたりで並んで座ると、小川では既に遊んでいる声。
「みんなここにいたんだね」
さっきまで一緒にプリンを作っていた面々がずぶ濡れになってはしゃいでいた。
「…そう、だな」
とはいえいるのは厚よりもずっと幼い短刀たちだけだ。
薬研や乱、それに愛染と昨日見守ると言っていた蛍丸の姿はなかった。
「楽しそうだね。私たちも行く?」
「慧着物着てるじゃん」
「脚だけ」
そう言って草履を脱ぎ、少し裾を持ち上げると、
「っ…」
一瞬厚の顔が赤く染まった。
「ね、行こ?」
そう言って先に小川に下りて脚を浸けた。
「慧さーん!!」
ずぶ濡れの今剣が私の目の前に跳んでくる。
ばしゃっと水が掛かったが、暑いのでそれすらも気持ちよく感じた。
「い、今剣さん、いけませんよ!!」
五虎退が止めに走ってくる。
「今日は厚に言われてるんだから!!」
包丁がそう言って今剣を捕まえた。
振り返ると少しばつの悪そうな厚。
そんなにも私とふたりきりを楽しみにしてくれていたのか。
大人しくざふざぶと厚の方に戻った。