第1章 プロローグ
「主、遠征部隊が帰ってきたみたいだぜ」
鶴丸の声が聞こえたのと、小狐丸の腕が緩められたのはほぼ同時だった。
「迎えにいくんだよね?」
顔を上げた私に、同じく起こしにきた清光が聞く。
「うん。…小狐丸ありがとう。よく眠れたよ」
「小狐丸も幸せでしたよ」
立ち上がり小狐丸にお礼を告げ、そして私の手をとってくれた清光と玄関まで迎えに行った。
「主もう平気?」
「うん、だいぶスッキリした。なんかさっきまで頭にモヤがかかったみたいで、ずっとぼんやりしてたんだよね」
昼食時よりはかなり意識がはっきりしていた。
「ならいいけど」
鶴丸は近侍としてなのかついてきている。
玄関には遠征から戻ってきた第二部隊と第四部隊。
怪我もなく元気そうだ。
「おかえりなさい。長い時間ありがとう」
お礼を言うと、
「余裕っての?次は戦場で頼むな」
厚が笑った。
「広間に飯あるぜ。手を洗ったやつからいけよー」
鶴丸が指示を出してくれる。
そんな中、
「ねぇ薬研、主なんか具合悪いみたいなんだけど…」
玄関を上がる薬研に清光が声を掛けた。
「は?どうした大将」
私に向き直り、顔を覗きこんでくる。
「…んと、もうだいぶ平気になったんだけど、さっきなんか頭がぐるぐるして、ちょっと気持ち悪くて…ご飯も食べられないし、一期さんの報告もあんま理解できなくて…」
症状を伝えると、
「今は?気持ち悪いか?」
私の頬に触れ、下瞼を引き下げたり、口を開けさせてみたりしながら聞く。
「うぅん、寝たらだいぶ治まったよ」
「なるほどなー」
少し考えて薬研は、
「多分だが、酸欠、のようなものだ」
「え?酸欠…?」
清光がキョトンとし、ちらりと視線を動かせば、ばつが悪そうな鶴丸。
「大将なんか酸欠になるようなことしたか?」
絶対鶴丸のせいだ、と思ったが、
「そういえばお風呂入ってのぼせたんだけど、それって関係ある?」
清光が真剣に尋ねる。
「まぁあるっちゃあるだろうが…」
そこまで言ってなんとなく察しがついたのだろう薬研は言葉を濁した。
「安静にしてりゃ治るだろ。俺も腹減ったから報告は後でするな、大将」
そう言って意味ありげに鶴丸の肩を叩いて薬研は去って行った。
「酸欠かぁ…」
清光は疑いもせず薬研の診断を受け取っているようだった。