第16章 Real love
朝早く目覚めた私は、大般若の腕から抜け出してひとり風呂に入った。
夜明け前の暗い空を見ながらの贅沢な時間を満喫していると、昨日思い出した記憶と感情が込み上げてきて目頭が熱くなってくる。
風呂から上がり、とりあえず昨日着ていた着物を簡単に着付け、置いたままにしてあった食器を持ち、大般若を起こさないように部屋を出た。
食器を厨で片付けてひとり審神者部屋に向かい、着替えを。
箪笥を開けると数々の着物が見えたが、それを閉じて自分の持ってきていた服に着替えた。
何て言おう。いつ行こう。
逢いたい気持ちはあるのに少し怖い。
そのまま審神者部屋でひとり悩んでいると、
「慧いるのか?」
声が掛かった。
「っ、はい」
逢いに行こうとしていた本人の声が聞こえて鼓動が早まる。
襖が開いて、まだ起きたばかりなのか浴衣姿の鶴丸が入ってきた。
「早起きなんだな」
私の前に座り、そう言ってくる。
見つめると涙が溢れそうになってくる。
「鶴さ、ん。鶴さん」
名前を呼ぶと、
「慧、思い出したんだな」
近づいて優しく抱き寄せてくれた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私鶴さんに酷いこと…」
どれだけ謝っても許されないだろうけども、謝ることしかできない。
「いいんだ。慧が俺を思い出してくれたらそれだけでもう」
苦しくなるほどの優しい声。
「私、鶴さんのことが凄く好きなのに、凄く大切なのに、記憶から消して…」
「慧は自分の心を守っただけだ。何も悪くない」
いつも私は鶴丸の胸で泣いている気がする。
「よかった。本当に、よかった。いつからだ?」
「昨日の、夜」
「そうか」
鶴丸に抱き締められて、温かい鼓動が私の鼓動と速さを合わせて、凄く幸せを感じた。
「あー、どうしたらいいんだろう。俺は慧とずっと一緒に居たいのに、今日は第一部隊の部隊長という重大な任務があるんだが」
それは遠回しに役を下ろせと言っているようにも聞こえる。
「昨日大般若だったんだろう?あいつ今頃無双ってるはずだ。俺と交替できないか?」
確かに昨日の出陣計画では大般若は今日組み込まれてはいなかったけど。
「無双かどうかは…」
判らない。しかし、
「誓ってもいい。だって慧の身体がこんなに熱いからな」