第15章 kiss for all the world
「あぁっごめ、なさい。ごめん、なさい」
掌で顔を覆い涙を止められない私に、
「思い出せたか?」
優しく聞いてくれる。
私はこのひとをよく知っている。
「今、気の流れが変わった」
大般若はそう言ってくれた。
思い出した。大般若のことも、鶴丸のことも、昨日ここに帰ってきてからのことも。
愛してたこの場所のこと、ひとのこと、全部思い出した。
「大般若、さん」
見つめると、
「良かった。心配しすぎて折れちまうかと思ったよ」
私のなかに挿ったまま顔を綻ばせる。
凄くきれいな、このひとなりの愛し方、優しさ。強さも全部。
「好き、です」
呟いた私に、
「ならばもう少し相手してもらおうか」
そう言ってまた動き始める大般若。
先程までの妙な緊張感から解放された私は、ただただ素直に声を上げて大般若に溺れた。
私を散々喘がせ、終わりを迎えた大般若が隣に横になり、
「やっと慧の啼き声を思う存分聞けた」
そう言って私を胸にかき抱く。
「良かった。本当に良かった。慧、すまなかったな。おかえり」
「っただいま」
私も大般若の胸に顔を押しつけて涙を溢した。
「また、たくさん名前を呼んでください」
「あぁ。慧の望みならいつだってかまやしないさ」
私の名前を聞いてくれて、私の名前を優しく呼んでくれる、こんな大事なひととの記憶を忘れるなんて。
それに、いつも私を元気づけてくれて、悲しみも、涙も痛みも苦しみも全部受け止めてくれた鶴丸。
我が儘で傷つけたのは私の方なのに勝手に蓋をして記憶から消しかけてた。
「鶴丸サンのことも思い出したんだな?」
「はい」
涙が止まらない。なんて酷いことをしたんだろう。なんて悲しい目をさせてしまったんだろう。
謝ったくらいじゃ済まされない。
あのひとの綺麗な瞳。綺麗な心。綺麗な姿。どれもがいとおしくて仕方がなかった。
「だがなぁ、思い出したところ申し訳ないんだが、今夜は逢わせないぜ。今は俺だけの慧で居てくれ」
大般若に言われて頷いた。
明日、朝起きたらいちばんに鶴丸のところへ向かおう。そして謝ろう。
とても許してもらえるとは思わないけど。
わずか感じる頭痛と共に訪れた睡魔に任せて、私は大般若の腕の中で眠りに堕ちた。