第15章 kiss for all the world
「駄目だ思い出せない。帰る前までのことなら全部覚えてる気がするのだけど…」
私が言うと、
「慧さんと関係を持っているのは誰?」
「…清光、石切さん、三日月さん、小狐丸、光忠、にっかりさんとあと一期さん」
「大般若さんは?」
「大般若、さん?私あの方とあまり喋ったことがないです。なんだか少し高嶺の花のように見えて…」
「そうか」
この本丸にはあまり話したことのない男士も何人もいて。だけど清光がいつも側にいたからあまり気になっていなかったのだと思う。
「君のなかでは鶴丸さんと大般若さんの記憶が完全に落ちてしまったんだね。特に鶴丸さん、か」
ぼそりと石切丸が呟いていたが理解できなかった。
風呂から上がって着物を着付けていると、
「それは誰に教わったの?」
「あ、蜂須賀さんです。お陰でまだ下手くそですがひとりで着られるようにはなりました」
「本当に帰る前の記憶はほぼ残っているんだね。なくなってるのは昨日から、だけか」
石切丸はなんだか悲しそうな顔をしている。
「ごめんなさい、私のせいで…」
「いや。だけどなんとか考えないとよくないよね?」
石切丸の言っている意味が判らない。
「何を考えるんですか?晩ごはんのメニュー?」
「え?」
話題はなんだったか。思い当たらない。
石切丸は更に悲しそうな顔をして、着付けの終わった私と共に寝室を出た。
審神者部屋まで送ってもらうと、そこにいたのは堀川で、
「お昼ご飯までにやれるとこまでやっちゃいましょ」
なんて笑ってくれる。
「今日堀川くんが近侍だったんだ」
「何言ってるんですか?朝も一緒に仕事したじゃない」
不思議そうな顔をした。
なにかが変だ、と思いながら仕事を進め、とりあえずお昼行こうと堀川が誘ってくれたからついていくことにした。
「慧ちゃん熱はもう下がった?」
広間につくと光忠が聞いてくる。
「熱?別になんともない、けど…」
「そう?」
「ねぇ光忠、後でコーヒー淹れて欲しい」
「朝も飲んでたよ?」
「そう?覚えてない…じゃあいいや」
コーヒーのリクエストを取り下げてお昼を食べることにした。
そこに、
「慧」
名前を呼ばれたのでそちらを向くと、真っ白な着物を纏った男性がいた。