第15章 kiss for all the world
「体質が変わってしまったのは、ひょっとしたら君が言霊の契約を破り一度空白の時間を作ってしまったからかもしれない」
石切丸が言った。
「今までは代償が酷い頭痛と睡魔だったけど、今回はひょっとしたら何か違うのかもしれないね」
何か思い当たる?と聞いてくる。
「とりあえず朝からスッキリしなくてぼんやりしてたのと、あとは…」
思い出せない。私は朝から何をしたっけ?
「なんだか記憶が曖昧で…ごめんなさい思い出せない。私朝から何をしてました?」
「それだよ、きっと」
「え?」
「君の中では帰る前の出来事がとても負担になってしまったんだろうね。そのせいで君の中の何かが私たちを拒もうとしているのかもしれない」
石切丸が簡単に分析してくれた。
「そんなつもりは…」
「慧さんが悪い訳じゃない。ねぇ道場に行ったのは覚えてる?」
「道場?」
私は朝からずっとここにいた気がするのだけど。
「そうだね。今朝部隊を組んだことは?」
「今朝、ですか?今誰か出陣してるの?」
「今日の近侍は判る?」
「近侍…?」
石切丸からの質問にひとつとしてまともに答えられていない。
「そうか。私とシたのは覚えているよね?」
「目覚めたら裸だったのでそうだろうと」
受け入れた、というのが正しいかもしれない。
「昨夜は誰に抱かれたか覚えている?」
「清光じゃないんですか?」
「違うよ」
「…判りません」
なんだかだんだん悲しくなってきた。
記憶が端から食べられて消されていっているみたいだ。
清光に抱かれたのはいつ?
不甲斐なくて目頭が熱くなってきてしまった私に、
「鶴丸さんのことはどう思ってる?」
「鶴、丸…さん」
誰だっけ?
「どんな方でした?」
聞き返しながら涙が溢れて零れ落ちた。
「鶴丸さんだよ?慧さんはとても鶴丸さんを好いていたし、鶴丸さんの方もそうだったじゃないか」
「ちょっと判らないです。私は清光がいちばんなのでは?昨日そんな話を清光から聞いたような」
「そうだけど…それは覚えているの?」
「昨日は清光に抱かれたことと清光と話したことは覚えてます」
その部分だけははっきりと覚えているが、その後何があったっけ?あれ?
「私はこっちにきてからずっとここに?」
「いや、広間で男士たちと食事をとっていたよ」