第15章 kiss for all the world
「そうか?国永に迫っていたあの目は変態じみていたが」
いつの間にか近くにいた大倶利伽羅が言う。
「私がいつ鶴さんに迫ってたって?」
噛みついてやると、
「こないだの出陣前だ」
「あれは!!」
鶴丸がいってらっしゃいのキスをしろだとか言ったから…。
「とにかく、あれは迫ってたわけじゃないからね!勘違いしないでよ?」
言い切ると、
「今度俺の出陣前に同じことしてくれたら考え直してやる」
とんでもないことを言ってきた。
なんだかこちらに戻ってから大倶利伽羅が完全にデレている気がする。
そんな私に、
「ふふふ。ご主人様、見てくれてるかい?」
ひらひらと攻撃を交わしながら亀甲が叫んできたから、
「見てる見てる」
軽く返事をしておいた。一緒に呑んだら楽しそうだ、なんて思った。
「さて、加持祈祷に行くかい?」
聞かれて頷き道場を後にする。
祈祷場でピンと張り詰めた空気を纏った石切丸に穢れなるものを払ってもらうと、心なしか気持ちが楽になった気がした。
「今日の気は割と安定しているね」
祈祷が済んだ後、私の前に座った石切丸が言う。
「まぁ昨夜が天下五剣様でしたからね」
「あぁそうだったね。三日月さんは皆にとっては少し恐れられているようだが慧さんの前ではとても可愛らしくなるだろう?」
「可愛らしく…まぁそうなんですかね?」
少し甘えん坊の構ってちゃんになっている気はするが。
「いつも上に立つものとして張り詰めているからね、慧さんの前だけは素でいられるのではないかな」
「石切さんは三日月さんの素を知ってるんですか?」
聞いた私に、
「まぁ私と小狐丸さんは素に近いものは知っているよ?案外ただのボケ老人だったり本当はすごく優しかったりね」
クスクスと笑いながら教えてくれる。
「どこがボケ老人なんですか、あんな絶倫エロじじい…」
「ははっ、慧さんにまでそんな風に言われるなんて、三日月さんも随分と素を出したものだね」
本当はそんな風にディスっても大丈夫なんだ、というのは最近気付いた。
むしろそうすると心なしか三日月が嬉しそうで。
「壁を作って固くなられるよりは、こうして下らないことでも言い合える関係のほうが素晴らしいと思うし三日月さんもそれを望んでるんだろうね」
石切丸はまだ笑っていた。