第13章 まばたき
蜂須賀に緩められた帯を必死で結び直して、
「どうですか?」
確認をしてもらうと
「いいと思う。…俺はこれで失礼する」
今度は蜂須賀がそそくさと出て行こうとしている。
「ありがとうございました。また判らなくなったら教えてください」
「判った」
慌ててお礼を言う羽目になってしまった。
「邪魔してすまなかったな」
「いえ。私着付け出来なくて…やっぱりちゃんと勉強しないとですね」
仕事道具を並べながら言うと、
「着付けの指導だったのか?」
「え?一体なんだと?」
「いや、その…」
長曽祢はどうやら私と蜂須賀が如何わしい事をしようとしていたと勘違いしているようだ。
「蜂須賀さんは私になんか興味ないですよ」
「そうか?まぁ慧ちゃんには加州がいるしな…」
「そうですね」
なんとなく長曽祢の顔が赤い。申し訳ないことをしてしまった。
「さぁ、仕事しましょうか」
「だな」
無理矢理切り替えて仕事を始めてはみたが、なんだかじわじわとくる痛み。
長曽祢の隊の戦課報告をまず受け、そして明日の出陣計画。
進めていくうちに痛みは更に激しくなる。そして、案の定訪れた睡魔。
「長、曽祢さん、ごめ…」
そこまで言って私の意識は途切れた。
目が覚めると机の上には記入し終えた書類がまとめてあり、私は部屋の隅に敷かれた布団に寝かされていた。
長曽祢はいない。
急に寝落ちたからびっくりしただろうなあ、と思いながら布団から出た。
「あーぁ、ほどけちゃった」
私が結んだ帯はやはり甘かったらしく緩んでしまっている。
立ち上がりまた教わった手順を思い出しながら帯を結んだ。
「うーん、上手くいかない」
どうしよう、と苦戦していると襖が開き、
「…あんた何やってんだ」
声が聞こえた。
というかなぜうちの男士たちは許可を取らずに襖を開けるんだ。
本当にあの寝室を見つけて良かったと思う。
「あ、ごめん伽羅さん。着付け、失敗しちゃって…」
落ちそうになる帯を押さえながら言うと、どすどすと近づいてきて帯を掴みぎゅうっと締め上げた。
「っっ苦し…」
「着付けも出来ないやつが和服なんて着るんじゃない」
言いながらも帯を結んでくれる。
「俺はこの結び方しかできない」
と言われてもどうなっているのかは私からは見えなかったけども。