第13章 まばたき
結局着物が着付けられず、念のためと寝室に持ってきておいた洋服を着て広間に向かった。
昼食を食べ終わるのが早いか、短刀くんたちが私にまとわりついてきた。
「慧早く早く!」
包丁が私の手を引っ張る。
「待ってまだ片付けあるから」
食器を洗って場所を広げないととても出来そうにない。
というか、厨で作るのは大変そうなのでホットプレートを貸してもらい広間でやることにした。
なんとか記憶を探り、薄力粉やベーキングパウダーを合わせて即席ホットケーキミックスを作って卵や牛乳を混ぜ合わせる作業と、トマトを刻む作業を短刀くんたちに任せた。
「なんだあ?料理教室か?」
「おもしろそうです。ぼくもやりたいです!」
ちょうど帰ってきたらしい長曽祢の部隊。
今剣が跳び跳ねた。
「今剣はご飯食べてからね」
「わかりましたぁ!ばびゅんとたべちゃいます!」
今から昼食だという男士の横でわちゃわちゃと始まったおやつ作り。
戻ってきた男士たちも興味があるコたちは食後に続々と参加してきた。
「見てくれ。オレ、ハートにしちゃった」
「似合わねー」
厚作のハートホットケーキに愛染が爆笑する。
「似合わねーってなんだよ!これは慧に食って貰うんだから!」
ちょ、今何気にめちゃくちゃ嬉しいこと言われたんですが…?
「なっ、厚抜け駆け!」
愛染が笑いを引っ込めて自分も、と意気込んだ。
トマトを入れたからほんのり赤くなったホットケーキはとてもかわいい。
「慧、一番に食ってくれよ」
焼き上がったそれをお皿にのせて私の前に突き出してきた。
「うん、ありがと。いただきます」
フォークを刺して口に運ぶ。
甘酸っぱい。
「美味しっ…!」
息子の作ったホットケーキに舌鼓を打つと、
「そうか!?」
厚は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いいなぁ。おれも食べてみたいもんだ」
後ろから覗いてきた長曽祢が手を伸ばそうとすると、
「長曽祢兄ちゃんには俺が作るよ!だから慧のは取るな!」
輪に混じっていた浦島が阻止してくれた。
厚も心なしかほっとしているようだ。
「私のはもういいからみんなの分も作ってよ?」
私が言うと、厚は、
「しょうがねぇな」
と丸いホットケーキを焼き始めた。
広間はすっかり甘い香りで満たされていた。