第12章 BE IN SIGHT
身体が震える。
声を出したいのに出せない。
見えないことが恐怖を増幅させている。
「ねぇ、隠してしまえば慧はずっと一緒にいられるんだよね?そうしたら視力返してあげるよ」
身動きもできず、ただ刀に怯え小さく震えることしかできないが、ピンと空気が変わるのは判った。
「何をしておる?」
「何って、何だろうね」
そう返してにっかりは刀を収めたのか、かちりと音が聞こえた。
「三日月、さん?」
さっきの声は間違いない。落ち着いた低音。
「お前は慧を殺めてどうするつもりだ?そんなことをしたら青江、お前自身も消えてしまうのだぞ?」
「そうだね。それでも構わないと思ったんだけど、やはり良くないね」
「何故慧を傷つける?」
「愛し方は人それぞれだとは思わないかい?」
お互いが抑揚のあまりない言葉を交わしている。
「本来刀の持つ性を呼び起こさせてしまうんだよ、慧の力はね。それが最近顕著だ。このまま続けてしまうと判っている僕たちは抑えられてもなにも知らない男士たちはどうだい?戦に出て時間遡行軍以外のものを斬ってしまうかもしれないよ?例えば元主の敵、だとかね」
「それが?」
「僕は他の男士のためにもこの力をこんなに乱用すべきじゃないと思ってる」
「判った。ならば一度帰そう…などと俺が言うと思うか?余計に溢れてしまう力なら俺が抑えるさ。それでいいだろう?」
三日月の声に柔らかさが戻った。
「青江、お前がその役を買って出る必要はない。ここの男士に嫌われるのも慧を怖がらせてしまうのも俺だけで充分だろう?」
「ふふっ、三日月さんには全部お見通しみたいだ。負けたよ」
そう言うとにっかりはまた私の目に右掌を当てた。
「慧、怖がらせてごめんね」
掌が離れると目の前が明るくなり、にっかりと三日月の姿が確認できた。
「ごめんね。怖がらせたら君はこの計画から降りてくれるかと思ったんだ。君の力が強すぎて、そのせいで男士たちの君への思いも強くなりすぎる。そうすれば君をここに留めておきたい気持ちだって勿論強くなるだろう?僕は君を苦しめたくなかっただけなんだよ」
にっかりは力なくそう教えてくれた。
「僕は君の感情のブレが判りすぎてしまうから」
私の感情が彼を苦しめてしまっていたようだ。