第12章 BE IN SIGHT
「起きてみろ」
言われて身体を起こすと、全く痛みがない。
「うそ、凄い!薬研整体師なの!?」
「ちげーわ」
スムーズに立ち上がれて感動している私の疑問を笑って否定したが、
「また痛くなったら言えよな」
言いながら薬研も立ち上がり、
「治療費はキスで立て替えにしとこうか」
やけにエロいキスをしてきた。
「薬研!!!?」
「慧とキス出来んなら俺はいつでも歓迎するぜ」
そう言って薬研は審神者部屋から出ていってしまった。
「治ったの?」
普通に立ち上がり、薬研にキスされるのを座ったまま見上げていた光忠は面食らっている。
「薬研くん、やっぱ知ってたんだね」
「だね…なんか気まずいけど助かった」
あれだけサバサバしていると否定する暇さえ与えてもらえない。
「で、昼前のなんだけど…」
「治ったから優しくしなくても大丈夫だよ」
私が言うと、
「なんかカッコ悪くてごめんね」
光忠が眉を寄せた。
昼食の準備は歌仙や堀川たちに任せて来たのだという。
「てか、もうそんな時間になるんだっけ?」
「いや、まだだけどね」
「なによそれ。ちょっと身構えちゃったじゃん!!」
言いながら堪えきれず欠伸をしてしまうと、
「あんま寝てないの?」
「うーん。寝たのなんか明け方だった気がする」
仕事も一段落し、腰痛も治まり、もう眠たい。
「コーヒー淹れようか?」
「あるの!?」
「あるよ。待ってて」
さすがにないとばかり思っていたが、思い込みだったようだ。
コーヒーセットを用意してきた光忠がコーヒーを淹れてくれるのを待ちながら、久々の香りに気持ちが華やぐ。
「いーにおーい」
こりこりと豆を挽いて、ドリップを始める光忠。
目の前でハンドドリップしてくれるなんて贅沢だ。
「コーヒー好き?」
「凄く好き。毎日飲むもん」
「そっか。早く教えてあげればよかったね」
ドリップを終えたマグカップを私の前に置いてくれる。
「ホットだけど、良かった?」
「うん。私は年中ホット派だから」
以前コンビニで働いていたとき外国人のお客さんにアイスコーヒーは日本特有だと聞いてからホットばかり好むようになったのだ。
「ところで光忠」
「なんだい?」
「優しくできなくてカッコ悪い、の続きはなに?」
ちょっとだけ引っ掛かってたこと。