第11章 Nameless fighter
「なぁ、俺はあんたに聞いときたいことがあったんだが」
大般若は私の腰に手を回したまま聞いてくる。
「なんですか?」
「主、名前はなんていうんだ?俺たちの名前は呼んでくれるのにあんたの名前は呼んだことがないってのはちょっとな…」
名前…。
「あー確かに知らないね。初めて会ったときから主は主だったから…」
清光が少し近づいてくる。
「最近呼ばれ慣れてないからなぁ、返事できるかわかんないけど…」
「呼ばれ慣れてないってどういうこと?」
光忠が疑問符を浮かべてきた。
「配偶者とやらにはなんて呼ばれてんだ?」
「…ねぇ、とかお母さん、とかかな」
ありがちなやつ。
「名前呼ばれないの?」
「うん。多分だけど呼ばれたことないかも。なんか呼ぶタイミング逃しちゃったのかな?」
一瞬で目に涙が集まりそうになって、上を向きながらお酒を呷った。
親はともかく友達はだいたい旧姓でのニックネームだったし、ここでは主ってのが私の名前でそう呼んでもらえるのが当たり前だったし。
一番呼んで欲しかった人には待てど暮らせど呼んでもらえなかった。
だから名前への愛着も捨てた。
なんとか涙をこらえたけど、
「なら、なおのこと呼んでやらないとなぁ。教えてくれないか?」
大般若が私の顔を見つめながら聞いてきた。
泣きそうなのも多分バレてて、目元を優しく撫でてくれる。
「…慧」
ぼそっと告げると、
「慧ちゃんって言うんだ!」
「慧。可愛いじゃないか。よく似合ってる」
「これからは慧って呼ぶからな!返事しろよ?」
光忠と大般若、鶴丸がそう言ってくれた。
清光も後ろから抱きついてきて、
「慧ちゃん。慧ちゃん慧ちゃん」
連呼し始めた。
「だめだって、そういうの…」
せっかく堪えてた涙が堰を切って溢れ出す。
名前、呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて知らなかった。
「あんた!!」
私の涙を大倶利伽羅が咎めようとしてきたが、
「これは悲しい涙じゃないから許してやれ」
大般若が止めてくれる。
「伽羅さん、ごめん。すぐ泣き止む」
擦ったら化粧が落ちちゃうから、と妙に冷静になりながら手の甲で押さえた。
「ありがと。名前呼ばれるのびっくりするくらい嬉しかった!」