第11章 Nameless fighter
「ねーあるじさんこれ、どうなってるの?」
可愛いものが気になるらしい乱が私の胸元に指をかけて引っ張った。
「こら乱!」
一期に叱られすぐに指を離してくれたが、
「すごぉい!女のひとって本当におっぱいあったんだぁ!」
今度は着物の襟元に少しはみでている膨らみをつつき始め、
「いーなぁ。ボクもあったら可愛くなれるかなぁ」
なんて言ってくる。
「乱!やめなさい!」
「いーじゃん。いち兄だって触りたいんじゃないのぉ?」
「私は…」
顔を反らした一期に、
「奥手は損だぜ、いち兄」
薬研が言った。
多分一期、あっち向いて心で笑ってる。
「あんたほんとに母ちゃんなのか?」
厚がお猪口を片手に聞いてきた。
「うん一応」
自分の娘と変わらない歳の見た目の子が普通にお酒を呑んでいる姿は不思議で仕方がない。
「えっろい母ちゃん」
「…うっさい」
発言は中学生レベルの厚に返して、場所を変えることにした。
そのままほぼ全ての男士を周りお酌しながら話して、たどり着いたのは光忠や大般若たちのところ。
「浮かれた主が来ましたよ」
皮肉を込めて大倶利伽羅に言うと、
「…来るな」
ぼそりと言ってくる。
「伽羅ちゃん!!」
「なんであんたはそんなに破廉恥なんだ!バカなのか?」
「バカですが、何か?」
大般若にお酌しながら言い返していると、
「俺は主がバカだとは思わないよ?むしろ男の士気の上げ方をよく知ってると思うが」
「…やったの清光だけどね」
「そーそ。今日はコンプ記念だからねー。皆にもお裾分けだよ」
清光の言っている意味が判ったらしい大般若は、
「そうか。じゃあありがたく貰おうか」
私の腰に手を回して引き寄せた。
「どうだ?大丈夫か?」
「うん。なんか吹っ切れたみたい」
「そりゃあいい。あんたは呑んでるか?」
「まだあんまり、ね?」
清光の方を向くと頷いてくれた。
お酌とボディーガードに忙しくて、私たちは呑まず食わずだ。
結婚式の新郎新婦みたい。
「じゃあここで呑めばいいさ。加州もな」
私に空のお猪口を持たせ、お酒を注ぐ。
一気に呑み干すと、ほわっと身体が熱をもった。
「ははっ、ここが紅く染まってやがる」
胸元を撫でて笑う。
「主ー、大般若に喰われるよ。拒否しなきゃ」
清光は後ろでお猪口を傾けていた。