第11章 Nameless fighter
「そろそろあっち戻ろっか」
「そだね」
みんなで連れだって屋敷の方に戻る。
隠し扉を閉めて少し離れて眺めると本当に判らない。
「全く気づかなかったよね」
「ほんと。忍者屋敷みたい。他にもあったりして」
「探してみるか?」
清光と鶴丸は楽しくなってしまったらしく、そのまま隠し部屋を探しに行ってしまった。
「主はどうする?俺と茶でも飲むか?」
「うん、そうする」
「では小狐も共に」
三日月に誘われて部屋にお邪魔することにした。
みんな非番だと何をしてるんだろう?
「誰もいないね」
庭を眺めながら言うと、
「短刀たちは一期一振始め面倒見のいいやつが奧の小川に連れていっておる。主も知っておる場所だと言っておったぞ」
もう私と一期の秘密の場所ではなくなってしまったようだ。
「他のものは鍛練をしていたり町へ行っていたり部屋で過ごしていたりというところか」
「ふぅん」
「暑いですからね。さすがに庭にはいませんよ」
だから私は誰にもこの格好を見られることなく三日月たちの部屋までたどり着いた。
「ぬしさま、こちらへ」
小狐丸は嬉しそうに私を膝の上に座らせようとしてくる。
「…いいの?暑くない?」
「ははっ、狐は可愛い主を愛でていたいのだ。抱かれておれ」
三日月に言われて大人しく小狐丸の膝の上に座ることにした。
三日月がお茶と茶菓子を用意してくれ、すごく穏やかな時間が過ぎていく。
この時間はなんだか私にとっても休日のようだった。
「小狐丸の髪ふわふわだね」
「お好きですか?」
「好きだよー。髪も腹筋も」
笑うと、
「主は昨日の素直になる力がまだ消えていないようだな」
「ん?魔法みたいなってやつ?」
「そうだ。先ほどの言葉の端々にも感じられてはいたが、何事も素直に受け入れて楽しもうとしているように思う」
確かにそうかも。にっかりに抱かれても、花魁にされても、三日月にみんなの前でキスされても、あんな言葉を並べても、小狐丸の膝の上にいても、胸はざわつかない。
ただただ、嬉しくて幸せなのだ。
「ねぇ、町に行けば出来合いのご飯とかってあるの?」
思いついて聞くと、
「あるぞ」
「じゃあ今日はそれで宴会にしよう!厨担当も休まなきゃ!光忠に言ってくる!」
立ち上がると三日月にストールのような大きな布を渡された。