第11章 Nameless fighter
「今宵はその格好の主に酌して貰いたいものだな」
三日月に言われますます調子に乗りそうだ。
「肩出して際どくしちゃおっか…主コンシーラーある?」
胸元を少し広げながら清光が言う。
「あるよ」
ポーチから出すと、それをキスマークに塗った。
「さすがに消しとかなきゃねー」
「やはり加州清光さんの痕だったんだね」
にっかりが笑った。
髪も結い上げて、ポーチに入ってた簪を見つけた清光がそれを挿す。
「花魁主完成!」
「あぁぬしさま、とても可愛らしい」
小狐丸の目はキラキラと輝いている。
「主、こちらにこい」
三日月が手を差し出してきたから引き寄せられるようにその手をとる。
すると、皆が見ている前で口づけてきた。
「頭痛、酷くなる前に消しておかねばな」
柔らかい表情でそう言ったが、その口元は真っ赤に染まっていて。
「ちょ、三日月鏡見てみなよ!」
「せっかくキレイに紅を引いたのに全部取られてるじゃないか」
清光と鶴丸が爆笑し始めた。
つられて他の皆も笑いだし、私も一緒になって笑った。
「しかし、主がこの格好で広間に現れたらみんな驚くだろうな」
「大般若殿とかはお好きそうですしね」
「えー、また主大般若に喰われるじゃん」
口々に言っている。
私は三日月の口元を化粧落としシートで拭き、自分の口元も手直しし口紅を袂に入れた。
「主、すまなかったな」
「何がですか?」
「俺たちの我が儘で毎日負担を強いて。それなのにお主はいつも笑っていつも何事にも全力でいてくれるから、俺はそれだけで救われる。主の元にこれて良かったと思う」
鏡の前、私の隣で静かに話し始めた。
「本当はツラいのであろう?毎日このようなことを繰り返して」
「…それ、今言うとせっかく落ち着いてたのにブレますよ?」
小さく睨むと、
「そうか。それは良くないな」
それ以上を口にするのをやめた。
「ツラいのはツラいですがいいのかなとは思ってます」
「それは?」
「だってこんな風に愛されちゃうともう戻れないですよね。付喪神様たち絶倫ですし、毎回相当気持ちいいですし」
茶化すと、
「もー、主?そういう言い方したらダメだよー」
聞いていたらしい清光が咎めてきた。
「事実じゃけぇね」
「ははっ、主はいつの間にか素直になったものだな」
鶴丸は笑ってくれた。