第10章 Beautiful life!!
「どうした?何を泣いておる?」
私の前に座りながら三日月が言った。
このひとは私の心の乱れに気づいているはずなのに、いつも知らない振りをする。
小狐丸が食事をもって戻ってきた。
「三日月殿、それを聞くのは野暮でしょう」
「そうですよ。なんでもありませんし。三日月さんには関係ないので!」
言い切ってサラダを一気に食べ、カレーを口に運んだ。
「主、カレーが飲み物になってるよ?」
あまり噛みもせずほぼ飲み込んでいる状態の私に清光が言う。
無理やり飲み込んだから胸のところが苦しくなってきた。
胸を軽く叩いて落とし、
「あー美味しかった。お先に失礼しますね」
無理やり飲み込んで匙を置き手を合わせた。
乱されないように、大きく息を吐いて立ち上がる。
もしも私の気が自分に見えていたとしたら、ぐっちゃぐちゃなんだろうな。
食器を片付けに厨に向かうと、後ろから清光と一期がついてきた。
「よし、洗うか」
洗い場に重なった食器に、気合いを入れると、
「絶対泣いた原因三日月でしょ?」
清光が後ろから抱き締めてきた。
「違う」
否定してスポンジを手に取る。
その空気に食器を下げにきた和泉守たちが中に入れず戸惑っていたから、
「そこ置いといて!」
なるべく明るい声と表情を作って言った。
「あぁ。ごっそーさん…」
そんな私を心配そうに見ていた物吉が、
「ボクがここで目隠しになります。泣いてもいいですよ?」
厨の入り口で食器を下げにきた男士の視線を反らす役を買ってでてくれた。
私よく厨で泣いてるよなぁ、なんて思いながら熱くなった目頭を冷ます術も見つからず、泣きながら食器を洗った。
清光も一期も何も言わない。
お通夜みたいに静かだった。
淡々と大量の食器を洗って片付けると、ちょっとスッキリした。
それで少し私の気が落ち着いたことに気づいたらしい一期が、
「主、冷たいお茶でも飲みませんか?」
声を掛けてくれる。
「うん、ありがと」
泣き腫らした顔で返した。
「もう広間は誰もいませんよ」
物吉も言ってくれる。三日月たちもいつの間にか戻ったようだ。
四人で広間の端に座って、
「お疲れ様。ありがと」
冷たいお茶で労った。
「ねぇ主、晩ご飯も当番?」
「うん」
「決めたの誰」
「伽羅さん」
答えると清光は顔を歪めた。