第1章 プロローグ
「っ…」
光忠の返しに思わず吹いてしまう。
人のこと生娘みたいだのなんだの散々言っときながら、自分たちは大真面目になんつーことを言ってるんだ。
「性欲か。なんだかいやらしい響きだね」
「主もあるの?性欲」
またしても純粋な目で清光が問いかけてくる。
「…なくはない。むしろある、よ」
言っても女30代。いちばん熟してる頃。
「あぁ良かった。僕だけだとしたらとても醜いことのように感じてしまうところだったよ」
「俺のもそうなんだよね?…主にキスしたいって思ったのも、全部」
「…清光、それは恥ずかしい」
お湯の中で膝を抱え口元までをお湯に浸けた。
「私にも似たような感情はあるね。主に口づけたいとか、肌に触れたいだとか」
石切丸までそんなことを言い始める。
「ならば私もそうですね。無理やりにでも腕の中に収めたいと思ってしまう。それに今朝の鶴丸殿の話からぬしさまの唇が気になって仕方がないのです」
そんな話を真顔でしているあたり、彼らの純粋さが窺い知れる。
「主の唇はとても柔らかくて甘くて気持ちいいんだよ」
光忠のぶっちゃけに、また清光が殺気立った。
「まさか光忠も?」
「そりゃ僕だって鶴さんや加州くんに負けないくらい主のことが好きだからね」
ブクブクブクブク…。
「ねぇもしも私がその言葉に応えてしまったら不倫になるのかな?」
朝からずっと抱えている疑問。
「んー、どうだろう。人型を成してはいるけれど私たちは刀であり付喪神と呼ばれるものだからね。主のいる世界での不倫というものには当たらないとは思うのだけど」
石切丸がわりとはっきりと答えを出してくれて少し楽になった。
「まぁ僕たちの元の主たちはそういうの当たり前の時代だったしね」
「確かに」
そうだよなぁ。江戸以前は割と一夫多妻制もあったんだった。
「主との間に子を宿すこともないと思うよ」
石切丸が今度は肉体関係のほうをぶっこんできた。
「そうなのかぁ。作ってみたかったな、子ども」
ぷぅと膨れる清光に、
「まぁ性欲っていうのは最果てがそこだろうからね。それも自然な感情なんじゃない?」
光忠が答えた。
「ぬしさま、大丈夫ですか?」
先ほどから私には返す言葉が見つからない。
どころか、
「のぼせそう…」
言うが早いか小狐丸がお湯の中から私を引き上げ抱き上げた。