第1章 プロローグ
「ごめ…重いよね」
朦朧とする意識のなか、小狐丸に全体重を預けてしまっていることが恥ずかしい。
「何を言っているのですか?この小狐、ぬしさまを抱き抱えるくらい容易いほどには鍛えております」
脱衣所で私を数枚のバスタオルでくるみ、置いてあった長椅子に寝かせてくれた。
小狐丸はとりあえず腰にタオルを巻き、水を用意してきてくれる。
「ぬしさま、失礼致します」
自らの口に水を含むと、そのまま私の唇に押し当ててきた。
冷たい水が喉に流れ込んでくる。
「んっ…」
ぼんやりした目で小狐丸を見つめると、
「もう少し飲まれますか?」
再び口移しで水を飲ませてくれた。
「…ありがと」
そのまま私は目を閉じる。
完全にのぼせていて少し気分が悪かった。
目を覚ますとどうやら審神者部屋のようだった。額を撫でる掌の感触。
季節柄暑いので敷き布団に寝かされ薄い布団を掛けられていただけで。
もちろんバスタオルに包まれたままの状態だったけど。
「悪いことをしたね」
そばにいたのは石切丸だった。
「石切さん。なんかごめんなさい」
起き上がり謝ると、
「大丈夫なのかい?人間というのはやはりどこか脆いところがあるようだね」
枕元には着替える予定だった服が置いてある。それを手に取ると、
「着替えるのなら私はあちらを向いておこうか」
石切丸は身体を動かした。
その隙に着替えの中からブラトップを取り被る。
そして、ワンピースも被ってバスタオルを外した。
「そういえば第一部隊と第三部隊が戻ってきているよ」
裾を引き伸ばし今度はショーツを手に取り履きながら、
「怪我は?」
食い気味に聞いた私に、
「戦果よりも真っ先にそれを聞くんだね。鶴丸さんと一期さん、和泉守さん、堀川さんが今手入れ部屋にいるけど、酷くはないみたいだよ」
落ち着いた声で教えてくれた。
またみんなに怪我をさせてしまった。
痛かっただろうに。本当に申し訳ない。
「私たちは手入れをすれば元に戻る。そんなに気に病まないでくれないだろうか」
「だけど…」
「私たちに指示を出し、出陣させるのが主の仕事だろう?主に気を使い怪我を恐れていては本領を発揮できなくなることも判っていてほしい」
石切丸が身体の向きを戻し、私を見据えて言った。
「…はい」
言っていることはもっともだ。