第9章 大袈裟
結局あれから三杯おかわりをもらい、ふわふわとした足取りで今石切丸の部屋へと向かっている。
「いーしきーりさんっ」
部屋の前で声を掛けると、少し経って障子が開いた。
「主…酔ってるのかい?」
「んー?」
聞かれてふにゃんと首を傾げる。
まぁ結構呑んだもんね。ピッチも早かったし。だいぶ回ってる。
石切丸をすり抜けて部屋に入り込むと、後ろから大きな身体で抱き締められた。
「どうして?」
「…今日は石切さんなんでしょ?」
「そうだけど」
完全に石切丸の声は戸惑っている。そりゃそうか。こんな酔っ払いが現れたんだものね。
「武装してきました」
言うと、
「お酒でかい?」
そうだ。感情を乱れさないため。自分の心のため。そのための武装だ。
「そう。ねぇ、抱いて?」
腕の中で身体の向きを変え見上げて言うと、
「困ったな。なんでだろう、私のほうが乱される」
眉をひそめて見つめてくる。
「ちょっと酔いが醒めるまでこうしておこうか」
そういうと私を抱き抱えその場に胡座をかいて座った。
「ねーねー石切さん、今日浴衣お揃い!」
「そうだねぇ。綺麗な色だね」
「可愛い?」
「うん、可愛い」
言われて嬉しくなって目を細めた私を大きな掌で撫でてきた。
「どうしてそんなにお酒を呑んだの?私は酔った女性をどうにかする趣味はないのだけれど…」
「んー、泣いちゃわないため、かな」
泣くことで私の感情は多分ブレる。
「泣くほど嫌なのかい?」
「違うよ。嫌じゃない、けど身体と頭が一致しないから…」
どうせなら素直に気持ちよくなりたい。
「そうか。やはりすまないことをしてしまったね」
「んーん、いいの。それでもみんなが笑顔でいてくれるから」
そう言って自ら石切丸に口づけた。
唇が離れると、
「やめてもいいんだよ?実験」
石切丸が提案してくれる。が、
「やめませんよ。これは私の覚悟だから。石切さんたちを10年も待たせることになるし、それでもちゃんと決めたんだって意思を見せたかったの」
「そうか。君はやはり強くなったね」
そう言うと、今度は石切丸から口づけてくれる。
横抱きにしたままの私の浴衣に手を掛け、胸元を広げた。
「なんだか脱がせるのがもったいないね」
なんて笑う。
石切丸を高めるための清光の作戦は成功したみたいだった。