第9章 大袈裟
「ねぇ今日の浴衣綺麗な色だね」
清光の選んでくれた浴衣は薄い緑色だった。
なんというか、
「ひょっとして今夜、石切さん?」
聞いた私に、
「そ。三条のじいさんたちは単純だからそういうちょっとした心遣いで興奮すると思うよ」
ちょっと小バカにしたように清光が言った。
にっかりじゃないんだ。流れ的にそう思ってたけど違った。
「ほんとはヤなんだけどねー、どうせなら可愛い主見てほしいし、主が痛い思いしないように向こうの感情高めてあげようかなって」
そうだ。男士の気持ちが昂ったほうが私は感じやすくなる。
今思ってるような、ほんとは清光がいい、なんて思いも全部消される。
私の気持ちとかそういうのは全部無視でただ快楽に溺れてしまうのだ。
「濡れなかったら痛いんでしょ?石切丸絶対でかいし」
心配しながら爆弾をぶん投げてくる清光。
「…そりゃ痛いけど」
「主が痛いのと気持ちいいのどっちが許せるかって自分なりに考えた結果だから」
いつものごとく器用に浴衣を着付けてくれると、
「うん、可愛い」
確認して褒めてくれた。
それから、広間でお酒を呑んでいるメンバーに混ぜてもらって、ちょっと呑ませてもらい、気持ちを落ち着かせる。
どうしても素面で抱いてくださいとお願いになんか行けない。
だからこその昨日の鶴丸と今日の一期のときのあの状態なのだろう。
前回の石切丸のときだって素面だった。だからこそ感情が壊れかけた。
小狐丸のときだって平常心ではなかったと思う。
光忠のときは熱に浮かされてたけど。
そして三日月はともかく、大般若のときは酔っていてそういった感情は沸いてこなかった。
自分なりに少し分析でき始めてきた。
だとしたら清光以外のときはなるべくお酒に頼る、というのも心を守るためには必要なことなのかもしれない。
「おんしは今日はなんかやけに色気があるのう」
私に酒を注いでくれながら陸奥守が言う。
「浴衣だからじゃない?」
返すと、
「そうかのう。ここ数日、やけに色を感じるんが気のせいじゃったかにゃ?」
なんて笑った。
意外に陸奥守鋭いかもしれない。
「さ、むっくんもう少し呑みさん」
私が徳利を手に取ると嬉しそうにお猪口を差し出してくれた。
あと一杯。あと一杯呑んだら石切丸のところへ向かおう。そう決めた。