第9章 大袈裟
夕食を食べ終えたあと、清光が、
「主、お風呂行こ?」
なんて誘ってきた。
「いーよ」
とりあえず今夜着る分を、と部屋まで取りに寄ると清光が箪笥を開けて浴衣を選んだ。
「ねぇ、清光にもらったやつは着せてくれないの?」
気に入ってるからまた着たいのだけど。
「あれはー、俺と過ごす時にしか着せないよ?今日は俺じゃないから」
少し悲しそうに言う。
「そ、か」
今夜も清光じゃないんだ。
私もなんだか悲しくなって顔を歪めると、
「主。俺は主が好きだからね?そんな顔しないでよ」
覗き込みながら言った。
「私も清光が好きだからね、そんな顔しちゃヤダ」
繰り返すように言うと、
「ごめん。嫉妬しただけ」
清光が力なく笑った。
風呂場には他の男士はおらず、案外食後のこの時間帯は穴場なのだと気づく。
清光とふたりで湯船に浸かっていると、清光が私の肩に頭を乗せてきた。
「ねぇ主」
「なぁに?」
「キスしていーい?」
「いーよ」
悩む間もなく返事をすると驚いたようにがばっと顔を上げた。
見つめてくる目は見開かれている。
「主?」
その緋い瞳を焼き付けるように目を閉じると、清光の濡れた手が私の耳辺りに添えられ唇を重ねられた。
「もっと」
催促すると、
「…ぅん」
何度も何度も優しく吸い上げられる。
「清光、好き」
「俺も主が好き」
お湯のなかで裸で抱き合ってふたり飽きることもなく口づけを続けていると、がたっと音が聞こえ反射的に目を開けた。
「…あんたら、何やってんだ」
開け放たれた扉と大倶利伽羅の姿。
「伽羅、さん…」
「そういうことは別でやってくれ!」
言いながら洗い場に向かった。その後ろから鶴丸と光忠も入ってくる。
「ごめん」
光忠は口元だけを動かしてそう伝えてくれた。
鶴丸はただニヤニヤし、
「うわーいいなー!俺もしたい!」
なんて言いながら通過していった。
なんだか居心地が悪くなって、
「私出るね」
大倶利伽羅たちが背を向けて身体を洗っているうちに脱衣場に急ぐ。
清光の方も慌ててついてきた。
そしてふたりで顔を見合わせて噴き出す。
「なんかめっちゃ優越感!」
「私も、ちょっと楽しかった」
見られた恥ずかしさよりも、清光と過ごした時間の方がずっと記憶に残りそうだった。