第9章 大袈裟
漸く三日月に解放してもらえ、明日の献立を考えながら厨を覗くと光忠が夕食の下拵えをしていた。
「主、明日のメニュー決まった?」
「うーん…野菜がいっぱい採れるから、夜は夏野菜の天ぷらとかどうだろうなぁって思ってるんだけど、お昼がね…」
「いいねぇ、天ぷら。遠征組にも残しておいてね」
「うん。わかった」
とりあえず晩御飯はこれでいけそうだ。
ついでにそうめんとかあれば良さそう。
「主はカレーとかは作れる?」
「うん」
「じゃあ、お昼カレーにしたら?昼前忙しくなると困るでしょ?カレーなら早くから作っておけるみたいだし」
光忠が案を出してくれる。
カレーってのが安直な気がしたけども。
「僕、カレー粉ってのを買ってみたんだけど、うまく使いこなせていなくてね。この本丸の男士たちはカレーライス食べたことないし、いいんじゃないかと思って」
「そうなの?」
カレーは大衆食ではないのか、ここは。
「これなんだけど」
やたらと大きな瓶に入った黄色い粉を出してくる光忠。
「え!!?カレー粉って、これ?」
ルゥじゃないのかよ。そしてなぜこのサイズを買ったのですか?
でもいける。やり方は知ってる。
「やっちゃろうじゃあ」
お昼だって夏野菜たっぷりカレーだ。
「でた長州弁」
無意識の私に、光忠が笑った。
「わぁ、恥ずかし。…ねぇ、小麦粉とか鶏肉はあるの?」
「うん。自由に使って」
ならばたぶんできる。大量のカレーがどうなるかはわからないけど。
とりあえずメニューが決まってほっとしつつ、晩御飯の調理を始めた光忠を手伝うことにした。
「物吉くんはご飯とかは炊ける?」
「はい!ボク出来ます!」
「明日私と厨当番なんだけど、ご飯お願いしてもいい?」
さすがに炊飯器以外でご飯を炊くのは自信が全くと言っていいほどない。
そして不安は早いうちに消しておくに限る。
一緒に夕食作りを手伝っている物吉を今日のうちから取り込んでおくことには成功した。
「主、漬物はここにあるからよければ使って?」
光忠もいろいろ気遣ってくれる。
だから多分大丈夫だろう。大倶利伽羅なんかに負けない。
「あと主、僕もカレー食べてみたいからそれも残しておいてよね」
「美味しいのが出来たら味見用に残しておくよ」
光忠はほんとに研究熱心だ。すぐ自分のものにするだろう。