第9章 大袈裟
その他の出陣計画と内番を立て終えたところで、
「おいあんたどうした?」
頭痛を我慢しすぎて真っ青になっている私に気づいたらしい。
「…ぁ、大丈夫」
もう終わってもいいんだよね、と書類を片付け始めたがうまく紙が集まらない。手に取れない。
ったい…。泣きそう。でも大倶利伽羅、いるから我慢、しなきゃ…。
涙目で耐えている私を、大倶利伽羅は小脇に抱え立ち上がらせた。
「どっか痛いんだろ?どうすればいい?寝るか?薬か?」
あぁそうだ。昨日薬研にもらった頭痛薬があった。
効くかどうかは判らないが、大倶利伽羅の目を反らすことはできるかも。
「薬…」
引き出しを指差し、連れていってもらう。
薬研に貰った薬を開けて口に押し込み飲み込んだ。
「おぃ、水は?」
「…」
粉薬を必死で唾液で流し込もうとしたが、さすがに無理があったようで。
喋ることすらできなくなった私に、光忠が残していっていた湯飲みを差し出してきた。
受け取って喉に流し込む。水じゃないけどこの際贅沢はいってられない。
「ちょっと寝てろ!」
布団を敷くと私をそこに寝かせ、とりあえず寝た振りをしたところで大倶利伽羅は気が済んだのか部屋から出ていった。
そこからもう数分。やはり効かない薬。大倶利伽羅の目を誤魔化すことはできたけど。
布団から這い出て襖までずるずる向かい、開けようとしたところでまるで自動ドアのようなタイミングでそれが開いた。
「主!!やはりまだ三日月殿のところには行ってないのですね!?」
私の気の乱れというのに気づいたらしい一期が探しにきたようだ。
横抱きに抱え上げると、少し早足で三日月の部屋へと向かった。
「三日月殿!失礼する!」
「おや、やっときたか」
三日月は私の頭痛を判っていたのだろう。待っていたぞと笑った。
「主を、早く」
焦る一期から私を受けとると、
「そうだな」
そう言って顔を伏せた。
三日月の口づけで、驚くほどに頭痛が消えていく。
「あぁ…」
私の表情が和らいだのに気づいた一期が安堵の声を上げた。
「なぜすぐに来ない?」
「…近侍が待っていて逃げらなかったの」
「そうか。…それにしても、一期一振。お主は感情を制御できる方だと思っていたが?」
「申し訳ありません。主の前では私もひとりの男となってしまいました」