第9章 大袈裟
屋敷近くまで戻ると、縁側から視線を感じる。
顔を上げると大倶利伽羅がこちらを睨み付けるように立っていた。
「…どこ行ってたんだ」
「…散歩」
「一期一振と手を繋いでか?いい身分だな」
言われて一期から手を離す。
「大倶利伽羅殿。そのような言い方はいかがなものかと」
一期が咎めたが、
「遊んでる暇があるんなら審神者の仕事をしろ」
言い放って背を向けた。
「一期さん、ありがとう」
そう言い残して慌てて大倶利伽羅を追う。
審神者部屋に入ると、大倶利伽羅が淡々と書き仕事を進めていった。
もちろん会話は全くない。
「今日の戦課は…?」
息が詰まりそうで聞いた私に、
「読めば判る」
報告書を突き付けてくる。
「…ぅん。ありがと」
駄目だな。今日の大倶利伽羅は特に機嫌が悪いみたいだ。
前にこの部屋で呑んだときにはもうちょっと話してくれたんだけどな、と思いながら読んでいると、
「とりあえず怪我人はふた振しかでていない。安心しろ」
言葉で伝えてくれた。
「…あんた、一体何をした?何をしている?」
報告書から目線を上げるとこちらを見据えていた。
「何って…?」
「こんなに怪我人が少ないのはおかしい。何なんだ一体…」
どうしよう。やっぱりおかしいって気づくよね?普通。
どう答えるべきか悩んでいると、
「主、開けるよ」
声がして襖が開いた。
「主また昼御飯も食べずに仕事してるでしょ。もう、こんな時間だからおやつ作ってきたけど食べる?」
光忠が部屋に入ってきた。救世主登場だ。
「今日はねー、伽羅ちゃんの好きなずんだ餅にしてみたんだ。主食べたことある?」
「ない。綺麗な色だね」
「うん。食べてみてよ」
嬉しそうに目を輝かせて勧めてくる光忠。
ひとつ口に入れると、優しい甘さが広がった。
「おいひぃ」
「でしょ?伽羅ちゃん大好きなんだよね?」
「…うるさい」
言いながらも食べるペースは落ちない。ほんとに好きなんだな…。
「ねぇ伽羅ちゃん、さっきちょっと聞こえたんだけど、怪我人が少ない理由、僕何となく判るよ?」
光忠が切り出した。
「…何だ?」
「主がここにいるから」
「は?」
「主は僕たちが怪我をしたのを見ると悲しむからね、僕たちの無意識が怪我しないようにって気合い入っちゃうんじゃないかな?」