第9章 大袈裟
うまく回らない頭を必死で働かせ、昨日鶴丸にキスをしてもらったら一時しのぎではあるが動けるくらいになったのを思い出した。
「あの、一期さん」
「なんですか?」
「少し力を分けて貰えないかな…」
私が言うと何のことか判らないといった風な顔をする。
「あの、口づけで少し楽になれるみたいなの。僅かな時間だけど。本当に申し訳ないんだけど…」
痛すぎて顔を歪めてしまう私の頬に手を添え上を向かせると、一期から口づけてくれた。
「んっっ」
舌を絡めてしばらくの間キスをして、唇が離れた頃、少し軽くなっている頭痛。
「ありがと。ちょっと動けそう」
「でしたらこのうちに着物を着て戻りましょう。それからは三日月殿に頼らないといけませんが」
私を立ち上がらせると、着物を順に着付けていく。
「なぜわざわざ着物なんでしょうか?」
「判んない。清光がやってくれるから…」
「きっとわざとですね。私たちが簡単に主に触れられないようにきっちりと着付けているのだと思います」
そんな深い理由があるかな?
ただ私が着替えを持ってきていなくて、私の部屋にたくさん着物があったからってだけだと思うけど。
「ですが、私たちが主に触れなければ主が長居出来ないというのまでは頭が回っていないのでしょうね」
確かに、着物トラップで実験失敗じゃあ笑えない。
「まぁ私には効果がないので構いませんが」
言いながら慣れた手つきで私を着付け終えた。
「苦しくはないですか?」
「平気。ありがと」
「では、酷くなる前に戻りましょう」
一期は私の手をとり、歩き始めた。
「主、あまり悩まないでくださいね。気が乱れますよ?」
「乱れ、てた?」
「はい。眠る前に。貴女は汚いことなどしていないのです。ここでは主が善。貴女の行いは全て善となるのです。度が過ぎる場合は私たちが咎めることがあるでしょうが」
確かに眠る前、何もかもが怖かった。
こんな行いを繰り返していたら愛想を尽かされるのではないか、とか嫌われるのではないか、とかそういった感情だったと思う。
「以前もお伝えしましたが、私たちは付喪神です。主の感情で乱されることはあっても傷つくことも負担になることもありません」
そうだ。だけど私はいまいちそれが理解出来ていないのだ。
「それたまに言ってもらえませんか?」
その方がきっといい。