第9章 大袈裟
畑当番も終わり、清光はどっか行っちゃったし、お昼まではまだ時間があったので散歩でもすることにした。
今日の近侍は大倶利伽羅なのだが、只今出陣中でいないし、審神者としての仕事は帰ってきてからでいいだろう。
広い本丸の敷地をのんびり歩きながら、そういえば以前見つけた小川に足を浸けたら冷たくて気持ちよさそうだと思い立ちそちらへと向かうことにした。
やはりここは穴場だ。誰もいない。
どころかここで会った一期以外知らないのかもしれない。
小川に下りると屋敷からは完全に死角になってしまった。
もちろんこちらからも屋敷は見えないけど。
「冷た…っ」
裸足になり袴の裾を持ち上げて小川に足を浸ける。
思ってたよりもずっと冷たくてビックリした。
そのまま川の浅い部分をざぶざぶと歩いて、座れそうなところを見つけそこに腰かける。
癒されるなぁ。
いつもみんなとずっと一緒に居られるのも楽しいし大好きな時間なのだけど、たまにはひとりで過ごす時間も欲しい。
自宅でもそうだ。
家事をして仕事して、子どもたちが帰ってくるまでの間が案外至福の時間だったりする。
そんな贅沢時間を満喫していると、
「主、探しましたよ」
ジャージ姿の一期が私を見つけた。
「一期さん!?」
「どこかいくときは屋敷のものに一声かけてからにしてください。でないと心配するでしょう」
やはり一期はお兄ちゃんだ。
「ごめんなさいいち兄」
そう言うと、
「だからいち兄はやめてくださいと何度も!!」
そこまで言って小さくため息をついた。
「まぁいいです。無事に見つけられたので。私じゃなければ誰も見つけられませんでしたぞ、きっと」
「かもね。何か用があった?」
小川から上がり岩に座って足を乾かしながら聞くと、
「主、お仕事の時間です」
淡々とした声で言った。
「仕事…あ、はい」
「もう屋敷まで戻る猶予はなさそうですが?ここで致しても?」
「え?」
「大丈夫です、誰も来やしませんよ」
私の手をとって立ち上がらせると、そばにあった大きな木陰まで連れていった。
屋敷から見えない側の幹に背を預けて座る一期。
その膝に私は跨がっている状態で。
「どう、しますか?」
膝立ちしている私より少し低い目線で見上げてくる。
「どうするって…」
「早くしないと時間が近づいてますぞ」